レンタル夫婦。
**
「はー……ちょっと食べ過ぎたかな。……あ、湊はどっちに寝る?」

席を立つまでは気が付かなかったけれど、思っていたよりお腹が膨れていた。
お酒も意外と回っていて、意識ははっきりしているのに少しふわふわしている。
そんな状態で部屋に戻ると、布団が二組敷いてあって、私は二つを見比べて首を傾げた。
何となく立っているのがしんどくて、布団の側に座り込む。

「みひろさん、……酔ってる?」
「ん? ちょっとだけ……?」

否定するのもおかしくて本当のことを言うと湊は私を見下ろして溜息を吐いた。

「ちょっと無防備すぎ。……もう少し警戒して」
溜息と共に聞こえた声に首を傾げる。
湊が自分の胸を指差したから自分の襟元を見ると、少し浴衣が肌蹴ていた。

「あ、……ごめん」

慌てて直す。

「一応そういうこと、はしない契約だけどさー……オレも男だから。煽るのはやめて」

湊は顔を逸らしてそう告げた。
煽ったつもりは全くないけど……それってもしかして、って思った。

「湊、私相手でどきどきする?」
「は? そりゃーするでしょ」
「……私、湊とならいやじゃないよ?」

頭がぽやぽやして、思ったままを言葉にする。
じっと見上げると湊と視線が合い――また溜息を吐かれた。
湊がそのまま屈んで私と目線を合わせてくる。

「あのさ、自分が何言ってるか分かってる?」
「分かってるよ。……湊に触ってほしい」

目の前の湊に、寄りかかるみたいに抱き着く。
また溜息が聞こえた気がするけど気にしない。

「みひろさん、そういうとこずるいね。……もう知らないから」
「え、……ん、」

余裕のない声が聞こえて顔を覗きこもうとする。……と、腕を引かれてそのまま唇が重なった。
今朝の触れるだけのそれとは違い、湊の舌が伸びてきて私の唇の表面を舐める。

「ふ、」

少し開いた隙間から舌が割り込んでくる。
そのまま歯列をなぞられて、力が抜けると舌を絡めとられた。

「ん……、」
湊の舌が私の上あごの裏を辿る。それに驚いて舌をひっこめようとするとまた舌を絡められた。

「ぁ……ふ、」

力がどんどん抜けていく。湊の手が私の浴衣の帯をほどき、そのまま押し倒された。

「……みなと……」

下から見上げた湊は、今まで見たことのない表情をしていた。
それに背がぞくりと粟立つ。
湊の顔が覆いかぶさってきて首筋に埋められる。
そして――

―――私たちは、そのまま体を重ねた。



< 35 / 61 >

この作品をシェア

pagetop