レンタル夫婦。
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湊と相談して、まずは送迎バスで駅まで向かった。
ロッカーに持っていた荷物を預けて、小さなバッグに貴重品だけを入れてそれを持つ。
それからまたバスに乗り込んで、最初は昨日話した遊歩道へ向かった。

「結構人がいるね」

まだ朝の早い時間帯だと言うのに、意外と人で賑わっていた。
カップルや家族連れなど日曜だからか人が溢れている。

「とりあえず歩こうか」

そう湊が言って私と湊は一緒に入口へと向かった。


中はもうすっかり山道で辺りは森と言う感じ。
歩く場所は舗装されていて、その横には川が流れていた。

「すごいね、こういう所を歩くの久しぶり」

「都内に住んでると中々縁がないよね」

普段とは違う環境に自然とテンションが上がる。
湊もいつもより楽しそうで、他愛もない会話をしながら山道を進んだ。
時々道が悪かったりするとすかさず手を貸してくれて、やっぱり湊はエスコート上手だなって考える。
紅葉してる景色は綺麗で、沢山写真も撮った。

一通り歩いて、休憩所に着く。
そこで一息入れて、また歩いた。
湊と話すのは楽しくて、あっという間に道を歩ききる。

「あれ……もう終わり?」
「そうだね。こっから、次行く予定の所に行けるよ」
「あ、そうなんだ」

湊って地理に強い気がする。
特に地図を開くわけでもスマホのナビに頼る訳でもなく道を進んでいく。
少し歩くと街並みが変わって、その先に歴史っぽい雰囲気のある建物が並んでいた。


「ここ。オレが見たかったとこ」
「へぇ、何があるの?」

湊が行きたかったという場所にテンションが上がる。
資料館のようなそこは、そんなに人がいないようだった。
受付のような場所で湊がチケットを買う。
それを受け取って中に入ると、中にはこの街の成り立ちを書いた紙や、歴史上の人物に関する逸話などが書いてあった。
正直ちょっと難しいなと思いながら展示物を見て回る。
湊がすごく真剣で、何だか意外に感じた。

「湊は、歴史もすきなの?」
「そういうわけじゃないよ。……ここはちょっと興味があっただけ」
「そうなの?」

その割には、ずいぶんと真剣に見えるけど……
湊は一つ一つの展示物の説明パネルも全て文字を読んでいるようだった。
なるほど、と呟いたり、すごく嬉しそうな顔をしたりしている。
こんなにコロコロ表情が変わる湊は初めてで、私は展示物よりもそんな湊を観察していた。


「はー……回ったなー。大丈夫? みひろさん、退屈だったでしょ?」
「え、全然?」

寧ろ湊を見てるのに忙しかったというか……
でもさ流石にそれは声に出せなくて曖昧に笑う。
湊は少しだけ照れたようにはにかんだ。

「付き合ってくれてありがと。……結構前から興味あってさ、一人じゃ来れなかったから。次は昨日話した和菓子屋に行くつもり」



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