レンタル夫婦。
**
それから少し歩いて、目的の和菓子屋へとたどり着く。
中ではこのお店限定の可愛いお菓子などが売っているようだった。

「すごい……これ、どうやって作ってるんだろ」

湊の服をくいくいっと引いて、ショーウインドにならんだ和菓子の一つを指差す。
花びらのような形のそれは、すごく綺麗で芸術作品みたいだった。

「本当だ、何で出来てるんだろ」

湊もガラスを覗き込んで呟く。
二人でそうしていると、お店の方に声を掛けられた。

「もしよろしければお二階の方で飲食も出来ますので……」
「え、そうなんですか?」
「はい、お二階は甘味処となっております」
「へぇ……ねぇ湊、寄ってもいい?」
「ん、もちろん」

湊が同意してくれて、二人で二階へと上がった。

二階は、思ったよりも広く、テーブル席がいくつか並んでいた。
その中の一つに案内されて、席につく。

「みひろさん。……これじゃない? ドラマのやつ」
「あ、本当だ! 書いてあるね!」

メニューにはドラマで使われたメニュー二つがピックアップされていた。
どちらも食べたくて迷う。
それでも、二つは食べれる気がしなくて、うんうんと唸った。

「どっちにしよう……」

真剣にメニューと睨めっこしながら呟く。……と、ぷっと湊がふき出した。

「……何で笑うの」
「いやだっておかしくて」
「だって……どっちも食べたくて」

拗ねるようにそう言うと、湊は私からメニューを取り上げた。

「あ、」
「何のためにオレと来てるの? 二つ頼んで分ければいーでしょ」

湊は何事もなくそう言って店員さんを呼ぶ。
そして、私が何かを言うよりも早く二つのメニューを頼んでしまった。

「いいの?」
「ん? だってオレも両方食べたいし」

申し訳なく思って問うと、あっさりとそう返される。
湊はやっぱり、優しい。

「……ありがと」

嬉しくて、ちょっとだけ目を伏せてそう言った。
こういうちょっとした優しさが、本当に嬉しい。

「どういたしまして」



**
甘味を食べながらドラマの話をする。
意外と湊も詳しくて盛り上がった。
それからお寺に行ってまたドラマの話をして、その後遅めの昼食を取った。
湊が元々用意してくれていた期間限定のチケットを使ってイベントを楽しみ、夕方には荷物を取り出して電車に乗り込んだ。
疲れているらしくうとうとしながら電車に揺られて、一緒に部屋まで帰った。


「はー結構回れたね」
「うん、楽しかった」
「それは何より」

部屋に戻って荷物を置いて、湊が呟いたのに笑顔を向ける。
本当に嬉しくて幸せな時間だった。

「湊、たくさん考えてくれてありがとう。……だいすき」

少し恥ずかしかったけど、そう告げてほっぺにキスをする。
湊は面食らったように固まった。

「あ、ごめん……私っ先に部屋に戻るね」

てっきりいつもみたいに返されると思っていたのに、そういう反応をされて急に恥ずかしさがこみ上げる。
そのまま逃げるように部屋へと駆けこんだ。

「どうしよう……もしかして、旅行中のノリだったのかな」

キスしたことも、一緒に寝たことも全部。
もしかしたら、ただの気の迷いで。
一回寝ただけで彼女面するなよ、なんて思われたらどうしようって途端に不安になる。

湊の気持ちが読めなくて、胸の奥が苦しくなった。
それを発散させたくて机に向かう。
以前ちょっと見ただけの書類を取り出して、パソコンを起動する。
この前少し書いただけの報告書のファイルを開いて、そこに湊との報告を書いていった。

湊と居たら楽しくてたまらないこと。
出来れば、これからも一緒にいたいこと。
……湊を、好きになってしまったこと。
それを正直に書いて、キスやセックスのことは書かなかった。

適当にそれっぽく纏めて、PDFに変換してありささんにメールで添付する。
それから、お風呂に入って、湊とは逢わないままその日は眠りについた。

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