レンタル夫婦。
10章:本音、衝突
***
――残り、7日。
月曜日になる。
もう今週で湊との生活は終わり。
早く解放されたいような、お金のためでも良いから一緒にいたいような、複雑な気持ちになる。
空も私の気持ちを表すかのように、今にも振り出しそうな曇り空が広がっていた。
仕事がいつもよりも少しだけ忙しいのが救いで、慌ただしい時間はあっという間に過ぎた。
まさか帰らない訳にもいかなくて、いつものようにスーパーに寄って帰宅する。
そして、湊のために晩御飯を作って待った。
「ただいま、みひろさん」
「おかえり湊、おつかれさま」
「みひろさんもお疲れさま」
何とか普通通りを装って接する。
大丈夫だと思っていたのに、食べ終わるころに湊が訊いた。
「昨日……あの後、大丈夫だった?」
「んー何が?」
「いや……だって泣いてたでしょ」
何で心配するようなふりをするんだろうって苦しくなる。
大丈夫って誤魔化しても全然引き下がって貰えず苛々した。
「だから……大丈夫って言ってるでしょ。……湊には関係ないから」
「そんな言い方しなくても良くない?……オレら、夫婦な訳だし」
――そこが、限界だった
「夫婦?……良く言う」
「え?」
「全部お金のためでしょ。いいよ、無理に優しくしないで」
「……どういうこと?」
湊は箸を置いてそう私を見た。
何かもう、いいやって思えて。
「惚れさせたら200万円、なんでしょ? 湊が優しいのはお金のためなんだ。……もう知ってるから、大丈夫だよ」
そう、笑顔を向ける。
湊は一瞬何とも言えない表情をして――それから、顔を逸らした。
「知ってたんだ」
「昨日知ったの」
「ふぅん?……まぁ、そうだよ。だって、200万だし」
てっきり否定してくれると思ったのに、あっさり認められて、心がずきずきと痛む。
「良かったね!……もう200万ゲットじゃん? 私、本当に湊のこと、すきだもん」
もう、止まんなかった。
涙が零れて溢れる。
言ったら終わりだってわかってるのに。
湊は私の方を見て、それから、軽蔑したような表情になった。
「あんたも結局は同じだな」
「え」
「本気で好きとかさぁ………オレの何を知ってんの?」
びっくりするぐらい冷たい声に、背筋が凍りそうになる。
「だって教えてくれないじゃん!」
持っていかれるのが嫌で、大声をあげた。
こんな、子供っぽいのはいやなのに。
痛くて、苦しくて、感情が溢れて止まらない。
「彼女いるんでしょ?……なのに私とヤっちゃって! 200万のためならどうでもいい女とヤれちゃうんだ!」
泣きながら怒鳴る。
湊は思い切り眉を寄せた。
「彼女? いないけど」
「嘘! みたもん!……水曜日に。可愛いこと腕組んで歩いてた」
何でこの状況で誤魔化すのか分からなくて、更に言葉をぶつける。湊は不快そうに見つめて、肩を竦めた。
「ああ……あれは仕事」
それから目線を逸らして溜息を吐く。
その、拒否するような仕草が凄く嫌だった。
「仕事って何! 女の子とイチャつくのが仕事なんだ!?」
ダメだって、分かるのに。……全然涙は止まらない。
湊が平然としているのも嫌だった。
「何って言われても……仕事、としか言えないよ」
湊は困ったように目を伏せる。
本当に本当に、限界だった。
「もう良いよ! ……湊の、バカ!」
バンッっと怒りをぶつけるみたいにテーブルを叩きつける。
そのまま私は大きな音を立てて立ち上がり、リビングを後にした。
「みひろさん!?」
驚いたような湊の声が背中から呼び止める。
それを無視して、廊下を走り、靴を履いてその場を飛び出した。
(湊のばか、ばか、ばか……っ)
今日、分かってしまった。
湊にとって、本当に私はどうでもいい存在なんだって。
それが辛くて苦しくて、いたい。
涙がどんどん止まらない。
――残り、7日。
月曜日になる。
もう今週で湊との生活は終わり。
早く解放されたいような、お金のためでも良いから一緒にいたいような、複雑な気持ちになる。
空も私の気持ちを表すかのように、今にも振り出しそうな曇り空が広がっていた。
仕事がいつもよりも少しだけ忙しいのが救いで、慌ただしい時間はあっという間に過ぎた。
まさか帰らない訳にもいかなくて、いつものようにスーパーに寄って帰宅する。
そして、湊のために晩御飯を作って待った。
「ただいま、みひろさん」
「おかえり湊、おつかれさま」
「みひろさんもお疲れさま」
何とか普通通りを装って接する。
大丈夫だと思っていたのに、食べ終わるころに湊が訊いた。
「昨日……あの後、大丈夫だった?」
「んー何が?」
「いや……だって泣いてたでしょ」
何で心配するようなふりをするんだろうって苦しくなる。
大丈夫って誤魔化しても全然引き下がって貰えず苛々した。
「だから……大丈夫って言ってるでしょ。……湊には関係ないから」
「そんな言い方しなくても良くない?……オレら、夫婦な訳だし」
――そこが、限界だった
「夫婦?……良く言う」
「え?」
「全部お金のためでしょ。いいよ、無理に優しくしないで」
「……どういうこと?」
湊は箸を置いてそう私を見た。
何かもう、いいやって思えて。
「惚れさせたら200万円、なんでしょ? 湊が優しいのはお金のためなんだ。……もう知ってるから、大丈夫だよ」
そう、笑顔を向ける。
湊は一瞬何とも言えない表情をして――それから、顔を逸らした。
「知ってたんだ」
「昨日知ったの」
「ふぅん?……まぁ、そうだよ。だって、200万だし」
てっきり否定してくれると思ったのに、あっさり認められて、心がずきずきと痛む。
「良かったね!……もう200万ゲットじゃん? 私、本当に湊のこと、すきだもん」
もう、止まんなかった。
涙が零れて溢れる。
言ったら終わりだってわかってるのに。
湊は私の方を見て、それから、軽蔑したような表情になった。
「あんたも結局は同じだな」
「え」
「本気で好きとかさぁ………オレの何を知ってんの?」
びっくりするぐらい冷たい声に、背筋が凍りそうになる。
「だって教えてくれないじゃん!」
持っていかれるのが嫌で、大声をあげた。
こんな、子供っぽいのはいやなのに。
痛くて、苦しくて、感情が溢れて止まらない。
「彼女いるんでしょ?……なのに私とヤっちゃって! 200万のためならどうでもいい女とヤれちゃうんだ!」
泣きながら怒鳴る。
湊は思い切り眉を寄せた。
「彼女? いないけど」
「嘘! みたもん!……水曜日に。可愛いこと腕組んで歩いてた」
何でこの状況で誤魔化すのか分からなくて、更に言葉をぶつける。湊は不快そうに見つめて、肩を竦めた。
「ああ……あれは仕事」
それから目線を逸らして溜息を吐く。
その、拒否するような仕草が凄く嫌だった。
「仕事って何! 女の子とイチャつくのが仕事なんだ!?」
ダメだって、分かるのに。……全然涙は止まらない。
湊が平然としているのも嫌だった。
「何って言われても……仕事、としか言えないよ」
湊は困ったように目を伏せる。
本当に本当に、限界だった。
「もう良いよ! ……湊の、バカ!」
バンッっと怒りをぶつけるみたいにテーブルを叩きつける。
そのまま私は大きな音を立てて立ち上がり、リビングを後にした。
「みひろさん!?」
驚いたような湊の声が背中から呼び止める。
それを無視して、廊下を走り、靴を履いてその場を飛び出した。
(湊のばか、ばか、ばか……っ)
今日、分かってしまった。
湊にとって、本当に私はどうでもいい存在なんだって。
それが辛くて苦しくて、いたい。
涙がどんどん止まらない。