レンタル夫婦。

***
「ただいま! ……湊、調子はどう?」

帰ってすぐさま、湊の部屋の扉をノックする。

「あーおかえり、入っていいよ」

そう返ってきた声が朝よりもずっと元気そうでホッとする。
扉を開くと、ベッドの上で湊は上体を起こした。

「あ、まだ寝てないと」
「いやもう大丈夫」

心配で声をかけるけど、あっさりそれを拒否されてしまう。
そのまま起き上がろうとする湊を慌てて引き止めた。

「今おかゆ作ってくるから待ってて?」
「……うん、分かった」

渋々というように頷いたのを見て急いでリビングまで行く。
荷物を置いたり手を洗ったり何やかんやを済ませてキッチンに行き、中華粥を作った。
それを薬と共に持っていき湊へ差し出す。
それを食べるのを見届けながら、先ほどのちろるさんの話をした。
同人ゲーというのは湊も知っているらしくて、そこの説明の手間が省けたのは正直かなり助かった。
一通り話すと湊は何とも言えない表情になる。

「んー……いいのに、気にしなくて」
「だって、応援したいもん。湊のこと」
「……はぁ。まぁ一応あるよ、作ったゲーム」

湊は呆れたみたいに言ってそれからそう告げる。

「え! あるの!? やってみたい!」

まさかあるとは思っていなくて声を張り上げる。
湊は少し驚いたようにした後で、デスクの引き出しを指差した。

「上から二番目。……適当に持っていってよ。PCに入れれば出来るから」
「えっいいの!? じゃあ早速やってみる! あ、もし何かあったら声を掛けてね」

湊の作ったゲーム。
そう思うと何だかとってもテンションが上がった。
どきどきわくわくとしながら、示された引き出しに手をかける。
開けると中には本の他にCDケースがあった。
百円ショップで売っている、何枚も入れれるやつ。

「これ?」

それを持ち上げて湊に見せると、湊はこちらを見て頷いた。

「そうそう。分かんなかったら、聞いて」
「うんっありがと!」

テンションが高いままお礼を言って、そのままそれを持って部屋を出た。
向かい側の自室に行き、そのままPCを起動する。
CDみたいなディスクは何枚もあって、直接タイトルが書かれていた。

それでも、雲とか、空、とか。学校の。とか。そんな短い単語しかなくて、全く中身が想像出来ない。
とりあえず一枚目にあった雲、というものを起動してみる。

一言で言うなら。
雲の上を渡っていって敵を倒すゲームだった。
えーと横スクロール?とかいうそっち系。マリオみたいな。

「ここでジャンプなんだ」

HELPのページを見ながら遊んでみる。
シンプルで、スマホのアプリにありそうな感じ。
こういうゲームが好きなのかな? って思って、少し遊んでそれを片付けた。
次は空。
それは、空が舞台のシューティングゲームだった。
先程とはがらりと変わった内容に、ちょっと驚きつつもテンションが上がる。

「これ……普通に面白い」

操作は凄く簡単で、単純なゲーム。
私は詳しくないから、もしかしたら作るのも簡単なのかもしれない。
けど、戦闘機のデザインも、ステージの感じもすごく面白いと思う。……少なくとも、私は好きだと思った。
それもまた遊んで、今度は学校の。と書かれたのを起動する。
それは学校の中に紛れ込んだ幽霊を倒すホラーアクションだった。

「むずかしい……」

元々ゲームはスマホアプリくらいしかやらないから、どうやってもすぐに死んでしまう。
湊がいたらコツとか教えてくれるのかな……って思いながらそれを早めに切り上げて次のディスクを起動した。
ミステリーっぽい推理ものや、パズル、恋愛ゲーム、ペットもの……など、どれも全く雰囲気が違っていた。

「これ……全部湊が作ったの?」

全体の雰囲気は勿論、絵の感じや音楽、操作の感じなどまるで違う。とても一人で作ったものとは思えずに首を傾げて、……それから、ちろるさんに連絡をした。

湊本人に確かめたわけじゃないから詳しくは分からないけど。
自分が遊んでみた感覚などを告げる。
と、ちろるさんはまた明日会おうと言ってきた。
出来れば、湊も込みで。と書いてあって、私は湊の風邪が今日中に治るように祈った。




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