レンタル夫婦。
**
――残り、4日
仕事を終えて、駅で湊と待ち合わせた。
それからちろるさんとの待ち合わせ場所へと向かう。
ファミレスに居るみたいで私と湊が一緒に行くと、ちろるさんと……初めて会う男の人がいた。
「あ、みひろーん。こっちこっち」
ちろるさんは私を見つけるなりそう手を振ってきた。
それに会釈して向かい側に座る。
「えっと……こっちが昨日話した人。……佐伯湊くん。んで湊、こちらがちろるさんで……」
そこまで紹介してちらりとちろるさんの隣の男性を見る。
ちょっと高そうな服を着た眼鏡の男の人だった。年は多分……三十代ぐらい?
「初めまして。茂原といいます」
凄く丁寧に挨拶をされて少し戸惑う。
私も慌てて頭を下げた。
「初めまして。えーと」
「みひろんちゃんね、大丈夫」
ちろるさんにフルネームで名乗っていないから、一瞬名字で名乗るか悩む。
それが伝わったのか、茂原さんはにっこりと微笑んだ。
それから湊の方を向く。
湊はども、と頭を下げた。
「佐伯です」
「イケメンだにゃあ」
頭を下げた湊の斜め向かいで、ちろるさんが呟いた。
湊はどういう風に思ったか分からないけど、いつもみたいに穏やかな笑顔を浮かべた。……これは、営業用なのかもしれないな、と何となく冷めた気持ちで思う。
「早速だけど、ゲームを作ってるんだよね? メインはプログラミング」
「そうですね。一応中学入るぐらいから勉強してて」
「言語は?」
「一通りは……扱いやすのはJAVAですけど。最近はunityとか」
「じゃあ3Dもいける?」
「簡単なのなら」
湊と茂原さんは早速とばかりに話し始める。
専門用語みたいなのが飛び交って、何を言っているのか全然分からなかった。
「みひろんパフェたべよ~?」
それはちろるさんも同じなのか、マイペースにメニューを差し出される。
それに頷きかけて、湊も私も晩御飯がまだだったのを思い出した。
「ちろるんさん、ご飯食べたんですか? 私、晩御飯まだで……」
「ん? 晩御飯がパフェだよ」
相変わらず不思議な人だな、と思いながらペースに呑まれる。
湊と茂原さんは凄く真剣に語り合っていたから、邪魔かなぁと思ってしまい声をかけられない。
「もはらん、何か頼みたいんだけど」
「……ああそうだな、先に注文するか」
でもちろるさんはそんな二人の空気をぶち壊してメニューを差し出していた。
二人がどういう関係なのか気になる……。
その後、それぞれ頼んだメニューを食べながら湊は茂原さんと真剣な話、私はちろるさんと他愛もない話をした。
正直湊が何を話しているのかは全然分からなかったけど、でも、今までに見たことのない表情が見れて嬉しかった。
二時間程そうして、お礼を言って二人と別れる。
駅までの道のりで、湊は我慢できない、というように話しだした。
「きいてみひろさん、あの人すごい人だよ……! どうしよーあー……やばい」
「そうなの? 良かったね……?」
正直こんなにテンション高く熱く語る湊は初めてで、若干距離の取り方が分からなくなる。
「いやもう本当にさぁーすごいんだって! あーもう、興奮おさまらねぇ」
はしゃぐ湊が別人みたいで驚いてしまう。
湊は顔を輝かせて、私の肩を掴んだ。
「みひろさん、本当有難う……! オレ、もーちょいがんばれそう」
「……湊のやる気が出たなら良かった。私、難しいことはわかんないけど、湊のゲーム、すきだよ。だから、色んな人にやって貰えたらって思う」
こんなに生き生きしている湊は初めてで、ついぽんぽんと頭を撫でてしまう。
湊は一度驚いたように目を見開き、それから視線を逸らした。
「……子供扱いやめてよ」
それからそう、拗ねたような声を出す。
やっぱり可愛いなぁって思ったけれど、それを口に出すのは我慢した。
**
――残り、3日
その日帰宅すると、湊がもう帰っていた。
「きいてみひろさん! 明日! オレのゲーム持っていけることになって!」
「うん?」
「明日、イベントがあるんだけど、参加させてもらえるって! 販売とかは申請の都合であれだけど、チャンスなんだ!」
湊は顔を輝かせたままそう語る。
正直何を言っているのかやっぱり分からなかったけれど、とにかく嬉しそうなのだけは伝わってきた。
だから、笑顔を返す。
「ねぇそのイベント? 私も行っていいかな」
「え?」
「邪魔じゃなかったら……連れていってほしいな」
「え、邪魔じゃないけど……みひろさん来てもつまんないと思うよ?」
「いいの、湊のこと、傍で応援したいだけだから」
「……そう? じゃあ、一緒にいこうか」
素直な気持ちを告げると、湊は照れたように笑った。
この顔、好きだなーって思う。
湊が嬉しそうにしているだけで、私の心の中には温かい気持ちが広がっていく。
こんな感情は初めてだった。――湊のゲームが認められて欲しくて。湊に、幸せになって欲しいって思う。
湊のこと、まだよく分からないくせに傲慢だな……って考えながら、私はその日、眠りについた。
――残り、4日
仕事を終えて、駅で湊と待ち合わせた。
それからちろるさんとの待ち合わせ場所へと向かう。
ファミレスに居るみたいで私と湊が一緒に行くと、ちろるさんと……初めて会う男の人がいた。
「あ、みひろーん。こっちこっち」
ちろるさんは私を見つけるなりそう手を振ってきた。
それに会釈して向かい側に座る。
「えっと……こっちが昨日話した人。……佐伯湊くん。んで湊、こちらがちろるさんで……」
そこまで紹介してちらりとちろるさんの隣の男性を見る。
ちょっと高そうな服を着た眼鏡の男の人だった。年は多分……三十代ぐらい?
「初めまして。茂原といいます」
凄く丁寧に挨拶をされて少し戸惑う。
私も慌てて頭を下げた。
「初めまして。えーと」
「みひろんちゃんね、大丈夫」
ちろるさんにフルネームで名乗っていないから、一瞬名字で名乗るか悩む。
それが伝わったのか、茂原さんはにっこりと微笑んだ。
それから湊の方を向く。
湊はども、と頭を下げた。
「佐伯です」
「イケメンだにゃあ」
頭を下げた湊の斜め向かいで、ちろるさんが呟いた。
湊はどういう風に思ったか分からないけど、いつもみたいに穏やかな笑顔を浮かべた。……これは、営業用なのかもしれないな、と何となく冷めた気持ちで思う。
「早速だけど、ゲームを作ってるんだよね? メインはプログラミング」
「そうですね。一応中学入るぐらいから勉強してて」
「言語は?」
「一通りは……扱いやすのはJAVAですけど。最近はunityとか」
「じゃあ3Dもいける?」
「簡単なのなら」
湊と茂原さんは早速とばかりに話し始める。
専門用語みたいなのが飛び交って、何を言っているのか全然分からなかった。
「みひろんパフェたべよ~?」
それはちろるさんも同じなのか、マイペースにメニューを差し出される。
それに頷きかけて、湊も私も晩御飯がまだだったのを思い出した。
「ちろるんさん、ご飯食べたんですか? 私、晩御飯まだで……」
「ん? 晩御飯がパフェだよ」
相変わらず不思議な人だな、と思いながらペースに呑まれる。
湊と茂原さんは凄く真剣に語り合っていたから、邪魔かなぁと思ってしまい声をかけられない。
「もはらん、何か頼みたいんだけど」
「……ああそうだな、先に注文するか」
でもちろるさんはそんな二人の空気をぶち壊してメニューを差し出していた。
二人がどういう関係なのか気になる……。
その後、それぞれ頼んだメニューを食べながら湊は茂原さんと真剣な話、私はちろるさんと他愛もない話をした。
正直湊が何を話しているのかは全然分からなかったけど、でも、今までに見たことのない表情が見れて嬉しかった。
二時間程そうして、お礼を言って二人と別れる。
駅までの道のりで、湊は我慢できない、というように話しだした。
「きいてみひろさん、あの人すごい人だよ……! どうしよーあー……やばい」
「そうなの? 良かったね……?」
正直こんなにテンション高く熱く語る湊は初めてで、若干距離の取り方が分からなくなる。
「いやもう本当にさぁーすごいんだって! あーもう、興奮おさまらねぇ」
はしゃぐ湊が別人みたいで驚いてしまう。
湊は顔を輝かせて、私の肩を掴んだ。
「みひろさん、本当有難う……! オレ、もーちょいがんばれそう」
「……湊のやる気が出たなら良かった。私、難しいことはわかんないけど、湊のゲーム、すきだよ。だから、色んな人にやって貰えたらって思う」
こんなに生き生きしている湊は初めてで、ついぽんぽんと頭を撫でてしまう。
湊は一度驚いたように目を見開き、それから視線を逸らした。
「……子供扱いやめてよ」
それからそう、拗ねたような声を出す。
やっぱり可愛いなぁって思ったけれど、それを口に出すのは我慢した。
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――残り、3日
その日帰宅すると、湊がもう帰っていた。
「きいてみひろさん! 明日! オレのゲーム持っていけることになって!」
「うん?」
「明日、イベントがあるんだけど、参加させてもらえるって! 販売とかは申請の都合であれだけど、チャンスなんだ!」
湊は顔を輝かせたままそう語る。
正直何を言っているのかやっぱり分からなかったけれど、とにかく嬉しそうなのだけは伝わってきた。
だから、笑顔を返す。
「ねぇそのイベント? 私も行っていいかな」
「え?」
「邪魔じゃなかったら……連れていってほしいな」
「え、邪魔じゃないけど……みひろさん来てもつまんないと思うよ?」
「いいの、湊のこと、傍で応援したいだけだから」
「……そう? じゃあ、一緒にいこうか」
素直な気持ちを告げると、湊は照れたように笑った。
この顔、好きだなーって思う。
湊が嬉しそうにしているだけで、私の心の中には温かい気持ちが広がっていく。
こんな感情は初めてだった。――湊のゲームが認められて欲しくて。湊に、幸せになって欲しいって思う。
湊のこと、まだよく分からないくせに傲慢だな……って考えながら、私はその日、眠りについた。