レンタル夫婦。

「おつかれさま~じゃあ休憩しよっか」

何時間かスタッフの仕事をして、リーダーのような人にそう声をかける。
1時間以内に戻れば何でもいいよと大雑把に告げられて、とりあえず何かを食べようとそこを後にした。
出来れば湊と落ち合いたかったけれど、やっぱりどこにいるかは分からない。
そもそも人が多すぎて、探すのも無理そうだった。
一応連絡を入れてみて、来るときに通ったコンビニへと向かう。
そこで適当に飲み物やおにぎりを買った。
外で食べている人がいたので、それに混ざって適当に座って食べ始める。


(ゲームかぁ……)

小さい頃は友達と遊んだこともあったけど、大人になってからは全然したことがなかった。
だからと言って、それを好きな人達を否定する気持ちは全くない。
寧ろ、私がジェニーズを好きなのと同じような気持ちかな? と考え勝手に親近感を覚えていた。

結局湊からは連絡がなくて、食べ終わってからスタッフの仕事に戻る。
段々疲れてきたけれど、湊のことを考えて何とか乗り切った。
時間が経つに連れて会場内の人が減り、ブースも片付けている所が多くなる。
16時近くなって私の居たところも撤収を始めた。
私も周りの人を手伝う。
人が多いからか十分ぐらいで片付けは終わった。

「今日は本当に有難うね~」
「あ、有難うございます」

リーダーの人がそう言ってジュースを差し入れてくれた。
それにお礼を言って、湊を待つ。
20分ほどして、茂原さんと湊がやってきた。
二人はすごく打ち解けたように話していて、何だか少しだけ複雑な気持ちになった。

「みひろちゃん、今日はありがとうね」
「いえ、色々と勉強になったっていうか……知らないことだらけで楽しかったです」

茂原さんにもお礼を言われて笑顔を返す。
少しだけ雑談をしてから、別れを告げて湊と一緒に会場を後にした。

「みひろさん、今日はごめんね、何かずっと構えなかったし……スタッフの仕事させられたんでしょ?」

「あ、全然気にしないで? 楽しかったし」
「そう? それなら良かったけど……今日で最後みたいなもんじゃん?」
「あ、それもそうだっけ……でも、来て良かったと思うよ。湊はどうだった?」
「そうそう、聞いてくれる? オレさぁ、仕事決まった」
「え!?」

予想外の言葉に思い切り大声をあげてしまう。
周りを歩く人達の何人かがこちらを見た。
恥ずかしくなって俯く。
湊はそんなことは関係ないとでも言いたげに続きを話し始めた。

「最初は契約からなんだけど……場合によっては正社員だって。めちゃくちゃうれしい」
「本当!? 良かったね! 契約でも十分すごいよ……!」

嬉しそうな湊の感情が伝染してくる。
何だか私も嬉しくなってきて一緒に喜んだ。

「ねぇ湊、これからお祝いしよっ……ね?」
「え、いいの? 疲れてるでしょ?」
「大丈夫、今ので吹っ飛んだから。……何だかお酒飲みたい気分なの。付き合ってよ」



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