レンタル夫婦。
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「それじゃあ、湊の新しい一歩に、かんぱーい」
「……かんぱい」

色々考えて、湊が病み上がりと言うこともあり、お酒を買って家で飲むことにした。
よく考えたら同じ所に住んでるんだしそれが一番面倒がないと気付いた。

買ってきたお酒をそれぞれグラスに注いでぶつけあう。
湊は少し照れたように視線を逸らした。

「みひろさんさ、……なんでそんな一生懸命なの」
「え?」
「だってさ……オレとは明日で終わりなんだよ? 仕事決まろうがバイトクビだろうが……関係なくない?」
「そうかな? 関係あると思うけど」

湊の言葉は正直きつかった。
ああ本当に明日一日が終わったらこの関係も終わるんだと嫌でも考えてしまう。
それが辛くて……でも、それを知られたくなくて、誤魔化すみたいにお酒を飲む。
グラスを傾けると氷がカラカラと音を立てた。……少し、切ない音。


「私ね、……やっぱり湊がすきだよ」

えって言いたげな顔を向ける湊に微笑みだけを向ける。

「湊が私のこと好きじゃなくて、……お金のためだって、今はちゃんとわかってる。でも、それでもやっぱり湊がすき」
「…………」
「最初はね、顔だった。大好きな山上くんそっくりで……よく言われるでしょ? 似てるって。だから緊張して上手く話せなかったり、毎日ドキドキしてた」

湊は何も言わない。だから私は湊から顔を逸らして、何もない壁の方を見つめて続けた。

「今もね、……正直顔は好きだよ。だってかっこいいもん。でも、それだけじゃないんだ。湊のこと、まだ分からないことも多いよ。湊が言ってたみたいに、知った気になってるだけで、本当は何も知らないのかもしれない。でも、今日とか新しい一面見れたでしょ? それでもっともっと湊のことを知りたいなって思ったんだ。ただの好奇心とか言われちゃうかもしれないけど、……湊の色んな表情を見てみたいし、新しい湊を知るたび嬉しくなるの」
「みひろさん」
「今日もね、私がしたことが湊の役に立ったなら本当に嬉しくて……見返りなんていらないんだよ。湊が本当にゲームを好きなのは伝わってきたし、遊ばせてもらったのは面白かったから、もっと世の中の沢山の人にプレイして欲しいって思うの。そうしたら、」
「みひろさん!」

一度言ったら止まらなくて、湊が呼び止めるのも関係なしに喋り続ける。
……と、グイッと肩を掴まれて強制的に湊の方を向かされた。


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