レンタル夫婦。
番外編:佐伯湊の事情
番外編:佐伯湊の事情
――恋愛とか、くだらない。
ずっと、そう思って生きてきた。
オレはモテる方だと思う。
自分で言うのもおかしいけど、見た目が某アイドルに似ているせいでよく間違われたし、色々声をかけられた。
もう、……そうだな、幼稚園? そのぐらい小さい、物心つく頃には声を掛けられていた。
ジェニーズに入りなよ、とか、モデルやりなよ、とか。子役になれるよ! だとか。
でもそんなのは興味が全くなくて。
オレは人と喋るのも得意じゃなかった。
父さんも母さんも仕事が忙しい人で、オレはいつも家に一人だった。
朝起きるとテーブルの上に千円札が置いてあって。
そこには毎回“これで好きなもの食べるのよ”そんなことが書いてあった。
それがいつからだったのかは分からないけれど、家族揃って食卓を囲む、なんて経験はゼロだったし、授業参観だとかに両親のどちらかが来てくれることはほぼなかった。
けど、だからって愛されてないとかそういうのを嘆くつもりはなくて。
欲しいものは大体買って貰えていた。
幼稚園の頃に、小さいゲーム機を持っているやつがいて。
それを触らせてもらったのが、キッカケ。
そこからはゲームにはまって、家に引きこもってやることが多くなった。
ゲームの凄い所は、家に居ながらボタン一つで勇者にもパイロットにも格闘家にもなれること。
色んな種類のゲームをやったと思う。
王道RPGも、シューティングも、育成ものも、ホラー、アクション、パズル、恋愛モノ、音ゲー、推理etc……
友達がいないくせに、格闘ゲームもやった。
オレはアイドルのよう、と言われる外見とは裏腹に、暗く内気な子供だった。
小学校を卒業するころには、告白されることも多くなっていて。
小学校で付き合ったのは特に覚えていないぐらいだけど。
中学に入った時、知り合いのお姉さんに、……いわゆるヤリ捨てをされた。
そこから女性不信に片足を突っ込んで。
しつこく告白してきた同級生と付き合ったら、『何かイメージ違う。もっと王子様みたいだと思ってたのに』ってフラれた。
そこからは完全に女性不信。
好きだって言われても、見た目でしょって思ったし、誰もオレの中身なんて興味ないと思っていた。
中学の頃、初めて友達って呼べるやつが出来た。
名前は大島陽翔。
いつもクラスの中心にいるやつだった。
陽翔は、いつも一人で居たオレが気になったらしく声をかけてきた。
最初はウザかったけれど、気付いたらもうアイツのペースに巻き込まれて、仲良くなってた。
陽翔はオレに今まで知らなかったファミリー向けゲームの楽しさを教えてくれたりした。
それをキッカケに、オレにも友達が増えた。
……と言っても、男友達はともかく女の子はやっぱり苦手だった。
大学生になってちょっとしたキッカケでホストのバイトをした。
それが結構ハマった。
適当に甘いことを言えば、客はみんな金を出してくれたから。
この頃のオレにとって、女の人はもう金ヅルだった。
一方で大学には真面目に通っていた。
情報系の学科でプログラミングを学んで、自分でも色々ゲームを作ったりしていた。
大学院までは行かずに就職を選んだ。
就活は時代もあってかなり苦労した。
やっと入れた会社は、ゲームやアプリではなく、社内システムを構築したりという感じだった。
どうしてもそれは面白く感じられなくて。
この時代ゲームはスマホアプリ以外売れないってわかってたけど。
続けられないと思ってすぐに会社を辞めた。
きっとこういう所がゆとりとか言われるんだろうなって客観的に考える。
仕事がなくなったオレがたどり着いたのがトゥリープのやっているレンタル彼氏だった。
偶々知ったそれは、ホスト以上にオレに向くと思った。
お酒も飲めるからホストもきっと向いていたんだろうけど、レンタル彼氏はまた少し違っていて、何だか肌に合っていた。
オレを選んでくれる客の評判はとても良く、リピーターが増えた。
その、所謂指名みたいなのがダントツで、オレは社長にも気に入られていた。
オレのサポートみたいなのが偶々榊さんで、榊さんとは色んなことを話した。
親身に相談に乗ってくれたりもして、榊さんは結構好きだった。
そんな生活をしていたある日、新しくレンタル夫婦というサービスが開始されるのを知った。
オレにその話が下りてきたのは、本当に偶然だった。
榊さんは、もしも候補の中から選ばれれば、おまえに頼む、という言い方をしていた。
正直、それはひと月間のゲームだと思っていた。
惚れさせたら、オレの勝ち。賞金は200万円。
そういう、ゲーム。
オレが候補の中から選ばれたと知り、相手と会うことになった。
そこで知り合ったのが、みひろさんだった。
正直、思っていたのと全然違った。
すらっとしてスタイルが良くて、美人。
何でこんな人が? そう思った。
でも同時に、オレをヤリ捨てした女に少し似ているような気もしていた。
美人で年上ってこと以外は、たぶん似てなかったんだろうけれど。
みひろさんは予想よりも初心らしくて、最初はちょっと触ったりしただけでも固まっていた。
それが可愛くて、オレは予定よりもちょくちょくちょっかいをかけていた。
でも、何日か経った頃、こいつも顔目当てだな、って気付いた。
それを確信したのは、アイドル好きだと知って。
あー、山上のファンね。って感じだった。
そこで一気に冷めた。
触るのも甘い言葉を吐くのも触れるのも。
オレにとっては大した意味がなくて。
息をするみたいに嘘を吐けたし、罪悪感なんてなかった。
オレのことを知りたい、とある日言われて知った所でまた幻滅するくせにって思っていた。
でも、みひろさんはそうじゃなかった。
デートとか言っても何が良いのか分からなくて、最初は無難なデートコースを設定した。
みひろさんの他と違う所は、どこに行っても楽しそうな所だった。
しかも、お金を掛けなくても喜んでくれる。
それが、ホストやレンタル彼氏にハマる女たちと違う所だった。
普段はすぐに固まるくせに、時々強気になるのも、今まで知らないタイプだった。
可愛いって言われたりからかわれるのは、そんなに嫌じゃなかった。
みひろさんは思い通りにいかなくて。
普通に連絡入れず終電で帰ってきたりとか、朝帰りしたりとか。
常識なさすぎだろってことを平然とされた。
その度にオレが振り回されてた。
おまえが望んだんだろ?
オレのこと好きなんだろ?……って、少し、いやかなり横暴なオレがいた。
だから、振り回されてイライラしていた。
多分調子に乗っていて。
自己中心的考えだった。
思い通りに行かなくてキレたりもした。
でも、みひろさんはその度に距離を詰めようとしてきた。
お弁当とか、……正直ずっと憧れていたから。
嬉しかった。
毎日おいしいごはんを作ってくれるのも。
半分ぐらい共同生活が過ぎたころ、みひろさんに告白された。
その頃は正直、だいぶみひろさんを意識してたんだけど、
あ、顔ねー。と思ってそこで何故か冷めた。
その後はただ200万円のために優しくするつもりだった。
でも、次の日二人で行った旅行先で知らない一面を見たりして。
気付いたら手を出してしまっていた。
そんなつもりはなかったから自分でビックリした。
その後は適度に距離を置くつもりだったのに、中々上手くいかなくて。
次の週にみひろさんが200万のことを知って号泣した。
本当は、その頃にはもう、お金のためだけに優しかった訳じゃないけれど。
認められなくて突き放した。
みひろさんは出ていった。……何も持たずに。
何だかそれがショックで。
理由は上手く言えないけど。
気付いたら必死になってさがしていた。
もう二度と帰ってこない気が、して。
雨も降り出すしずぶ濡れで最悪だった。
やっと見つけたみひろさんは、アーケードの屋根の下で体育座りをしていて。
何かこの人本当に年上なの? って呆れて。
でもその一方で、放っといたら死んじゃうんじゃないか、みたいな感覚が生まれた。
何となく目が離せなくなって。
そしたら次の日オレが風邪ひいて倒れちゃって。
みひろさんはあろうことか会社を休んだ。
普通休まないでしょ、常識なさすぎじゃないって思う一方で、小さい頃の記憶が蘇ってきていた。
熱で寝込んでも、両親は仕事に行かなきゃ、と行って出ていった。
あまりにオレの調子が酷い時は、一時的なヘルパー? ベビーシッター? のようなものを雇うこともあったけれど、両親が仕事を休んで側にいる、なんてことは記憶になかった。
だから、無意識化で仕事よりもオレを選んで貰えたことが嬉しかったんだと思う。
ついつい甘えて本音が漏れた。
話したのは、もう数日でこの関係も終わりだし、ってのがあったからなんだけど。
みひろさんは今まで知り合った女性達とは全く違う反応をしてくれた。
作ったゲームをやりたいって言って、本当にプレイしてこと細かに感想をくれたりとか。
やっぱりさ、愛情込めて作ったゲームを面白いって言って貰えるのは嬉しくて。
しかもそれだけじゃなくて、知人を通じてオレにチャンスをくれた。
やる気がなくなっていたオレに、もう一度夢に向かえって励まして貰えて。
何かもう、あ、この人と一緒に居なきゃって本能レベルで思った。
社長に電話をして、状況を説明した。
社長としては元々三カ月で見ていたらしく、三カ月までなら延長は何も問題ないと言われた。
その緩さに驚きながらも甘えることにして、あの日、会議室でみひろさんに気持ちを伝えた。
部屋に帰って、何とか用意した即席の指輪を渡す。
それから人生初めてのプロポーズをした。
みひろさんの反応は、予定通りじゃなかったけれど。
まだ二カ月あるから、ゆっくり少しずつ本当にオレを好きになって貰うつもり。
お互いまだまだ知らないこともあるから、少しずつ時間をかけて。
きっと喧嘩もするだろうし、衝突もたくさんすると思う。
でも、みひろさんとなら何だかんだで仲直り出来る気がするんだ。
だから、これからのことに、何の不安もない。
「――これからゆっくり、本当の夫婦になろ」
隣で眠る彼女の瞼にそうキスを落とす。
残り期間はあと、60日。
オレとみひろさんの契約は、まだ始まったばかりなんだ。
これはゲームだよ、みひろさん。
60日間に、どれだけオレに夢中にさせられるか。
今もきっと好きなんだろうけど、もっともっと夢中にさせてあげる。
だから、これからも側にいて。
FIN.
――恋愛とか、くだらない。
ずっと、そう思って生きてきた。
オレはモテる方だと思う。
自分で言うのもおかしいけど、見た目が某アイドルに似ているせいでよく間違われたし、色々声をかけられた。
もう、……そうだな、幼稚園? そのぐらい小さい、物心つく頃には声を掛けられていた。
ジェニーズに入りなよ、とか、モデルやりなよ、とか。子役になれるよ! だとか。
でもそんなのは興味が全くなくて。
オレは人と喋るのも得意じゃなかった。
父さんも母さんも仕事が忙しい人で、オレはいつも家に一人だった。
朝起きるとテーブルの上に千円札が置いてあって。
そこには毎回“これで好きなもの食べるのよ”そんなことが書いてあった。
それがいつからだったのかは分からないけれど、家族揃って食卓を囲む、なんて経験はゼロだったし、授業参観だとかに両親のどちらかが来てくれることはほぼなかった。
けど、だからって愛されてないとかそういうのを嘆くつもりはなくて。
欲しいものは大体買って貰えていた。
幼稚園の頃に、小さいゲーム機を持っているやつがいて。
それを触らせてもらったのが、キッカケ。
そこからはゲームにはまって、家に引きこもってやることが多くなった。
ゲームの凄い所は、家に居ながらボタン一つで勇者にもパイロットにも格闘家にもなれること。
色んな種類のゲームをやったと思う。
王道RPGも、シューティングも、育成ものも、ホラー、アクション、パズル、恋愛モノ、音ゲー、推理etc……
友達がいないくせに、格闘ゲームもやった。
オレはアイドルのよう、と言われる外見とは裏腹に、暗く内気な子供だった。
小学校を卒業するころには、告白されることも多くなっていて。
小学校で付き合ったのは特に覚えていないぐらいだけど。
中学に入った時、知り合いのお姉さんに、……いわゆるヤリ捨てをされた。
そこから女性不信に片足を突っ込んで。
しつこく告白してきた同級生と付き合ったら、『何かイメージ違う。もっと王子様みたいだと思ってたのに』ってフラれた。
そこからは完全に女性不信。
好きだって言われても、見た目でしょって思ったし、誰もオレの中身なんて興味ないと思っていた。
中学の頃、初めて友達って呼べるやつが出来た。
名前は大島陽翔。
いつもクラスの中心にいるやつだった。
陽翔は、いつも一人で居たオレが気になったらしく声をかけてきた。
最初はウザかったけれど、気付いたらもうアイツのペースに巻き込まれて、仲良くなってた。
陽翔はオレに今まで知らなかったファミリー向けゲームの楽しさを教えてくれたりした。
それをキッカケに、オレにも友達が増えた。
……と言っても、男友達はともかく女の子はやっぱり苦手だった。
大学生になってちょっとしたキッカケでホストのバイトをした。
それが結構ハマった。
適当に甘いことを言えば、客はみんな金を出してくれたから。
この頃のオレにとって、女の人はもう金ヅルだった。
一方で大学には真面目に通っていた。
情報系の学科でプログラミングを学んで、自分でも色々ゲームを作ったりしていた。
大学院までは行かずに就職を選んだ。
就活は時代もあってかなり苦労した。
やっと入れた会社は、ゲームやアプリではなく、社内システムを構築したりという感じだった。
どうしてもそれは面白く感じられなくて。
この時代ゲームはスマホアプリ以外売れないってわかってたけど。
続けられないと思ってすぐに会社を辞めた。
きっとこういう所がゆとりとか言われるんだろうなって客観的に考える。
仕事がなくなったオレがたどり着いたのがトゥリープのやっているレンタル彼氏だった。
偶々知ったそれは、ホスト以上にオレに向くと思った。
お酒も飲めるからホストもきっと向いていたんだろうけど、レンタル彼氏はまた少し違っていて、何だか肌に合っていた。
オレを選んでくれる客の評判はとても良く、リピーターが増えた。
その、所謂指名みたいなのがダントツで、オレは社長にも気に入られていた。
オレのサポートみたいなのが偶々榊さんで、榊さんとは色んなことを話した。
親身に相談に乗ってくれたりもして、榊さんは結構好きだった。
そんな生活をしていたある日、新しくレンタル夫婦というサービスが開始されるのを知った。
オレにその話が下りてきたのは、本当に偶然だった。
榊さんは、もしも候補の中から選ばれれば、おまえに頼む、という言い方をしていた。
正直、それはひと月間のゲームだと思っていた。
惚れさせたら、オレの勝ち。賞金は200万円。
そういう、ゲーム。
オレが候補の中から選ばれたと知り、相手と会うことになった。
そこで知り合ったのが、みひろさんだった。
正直、思っていたのと全然違った。
すらっとしてスタイルが良くて、美人。
何でこんな人が? そう思った。
でも同時に、オレをヤリ捨てした女に少し似ているような気もしていた。
美人で年上ってこと以外は、たぶん似てなかったんだろうけれど。
みひろさんは予想よりも初心らしくて、最初はちょっと触ったりしただけでも固まっていた。
それが可愛くて、オレは予定よりもちょくちょくちょっかいをかけていた。
でも、何日か経った頃、こいつも顔目当てだな、って気付いた。
それを確信したのは、アイドル好きだと知って。
あー、山上のファンね。って感じだった。
そこで一気に冷めた。
触るのも甘い言葉を吐くのも触れるのも。
オレにとっては大した意味がなくて。
息をするみたいに嘘を吐けたし、罪悪感なんてなかった。
オレのことを知りたい、とある日言われて知った所でまた幻滅するくせにって思っていた。
でも、みひろさんはそうじゃなかった。
デートとか言っても何が良いのか分からなくて、最初は無難なデートコースを設定した。
みひろさんの他と違う所は、どこに行っても楽しそうな所だった。
しかも、お金を掛けなくても喜んでくれる。
それが、ホストやレンタル彼氏にハマる女たちと違う所だった。
普段はすぐに固まるくせに、時々強気になるのも、今まで知らないタイプだった。
可愛いって言われたりからかわれるのは、そんなに嫌じゃなかった。
みひろさんは思い通りにいかなくて。
普通に連絡入れず終電で帰ってきたりとか、朝帰りしたりとか。
常識なさすぎだろってことを平然とされた。
その度にオレが振り回されてた。
おまえが望んだんだろ?
オレのこと好きなんだろ?……って、少し、いやかなり横暴なオレがいた。
だから、振り回されてイライラしていた。
多分調子に乗っていて。
自己中心的考えだった。
思い通りに行かなくてキレたりもした。
でも、みひろさんはその度に距離を詰めようとしてきた。
お弁当とか、……正直ずっと憧れていたから。
嬉しかった。
毎日おいしいごはんを作ってくれるのも。
半分ぐらい共同生活が過ぎたころ、みひろさんに告白された。
その頃は正直、だいぶみひろさんを意識してたんだけど、
あ、顔ねー。と思ってそこで何故か冷めた。
その後はただ200万円のために優しくするつもりだった。
でも、次の日二人で行った旅行先で知らない一面を見たりして。
気付いたら手を出してしまっていた。
そんなつもりはなかったから自分でビックリした。
その後は適度に距離を置くつもりだったのに、中々上手くいかなくて。
次の週にみひろさんが200万のことを知って号泣した。
本当は、その頃にはもう、お金のためだけに優しかった訳じゃないけれど。
認められなくて突き放した。
みひろさんは出ていった。……何も持たずに。
何だかそれがショックで。
理由は上手く言えないけど。
気付いたら必死になってさがしていた。
もう二度と帰ってこない気が、して。
雨も降り出すしずぶ濡れで最悪だった。
やっと見つけたみひろさんは、アーケードの屋根の下で体育座りをしていて。
何かこの人本当に年上なの? って呆れて。
でもその一方で、放っといたら死んじゃうんじゃないか、みたいな感覚が生まれた。
何となく目が離せなくなって。
そしたら次の日オレが風邪ひいて倒れちゃって。
みひろさんはあろうことか会社を休んだ。
普通休まないでしょ、常識なさすぎじゃないって思う一方で、小さい頃の記憶が蘇ってきていた。
熱で寝込んでも、両親は仕事に行かなきゃ、と行って出ていった。
あまりにオレの調子が酷い時は、一時的なヘルパー? ベビーシッター? のようなものを雇うこともあったけれど、両親が仕事を休んで側にいる、なんてことは記憶になかった。
だから、無意識化で仕事よりもオレを選んで貰えたことが嬉しかったんだと思う。
ついつい甘えて本音が漏れた。
話したのは、もう数日でこの関係も終わりだし、ってのがあったからなんだけど。
みひろさんは今まで知り合った女性達とは全く違う反応をしてくれた。
作ったゲームをやりたいって言って、本当にプレイしてこと細かに感想をくれたりとか。
やっぱりさ、愛情込めて作ったゲームを面白いって言って貰えるのは嬉しくて。
しかもそれだけじゃなくて、知人を通じてオレにチャンスをくれた。
やる気がなくなっていたオレに、もう一度夢に向かえって励まして貰えて。
何かもう、あ、この人と一緒に居なきゃって本能レベルで思った。
社長に電話をして、状況を説明した。
社長としては元々三カ月で見ていたらしく、三カ月までなら延長は何も問題ないと言われた。
その緩さに驚きながらも甘えることにして、あの日、会議室でみひろさんに気持ちを伝えた。
部屋に帰って、何とか用意した即席の指輪を渡す。
それから人生初めてのプロポーズをした。
みひろさんの反応は、予定通りじゃなかったけれど。
まだ二カ月あるから、ゆっくり少しずつ本当にオレを好きになって貰うつもり。
お互いまだまだ知らないこともあるから、少しずつ時間をかけて。
きっと喧嘩もするだろうし、衝突もたくさんすると思う。
でも、みひろさんとなら何だかんだで仲直り出来る気がするんだ。
だから、これからのことに、何の不安もない。
「――これからゆっくり、本当の夫婦になろ」
隣で眠る彼女の瞼にそうキスを落とす。
残り期間はあと、60日。
オレとみひろさんの契約は、まだ始まったばかりなんだ。
これはゲームだよ、みひろさん。
60日間に、どれだけオレに夢中にさせられるか。
今もきっと好きなんだろうけど、もっともっと夢中にさせてあげる。
だから、これからも側にいて。
FIN.