凸凹リレイション
「あ、ありがとう……。う、うれしい、です」
尻すぼみの小さな声に、俊介はにっこり笑う。
「おう、じゃあロッカー行ってくるな」
後姿を見ているだけで、明日美の動悸は激しくなる。
(息をするのも、苦しい)
初めての気持ちだった。一緒にいると萎縮してしまうのに、離れるのは寂しいと感じる。気が付くと目で追ってしまって、頭の中がいっぱいになる。
(苦しい)
唇をきゅっと噛みしめる。
「お待たせ、明日美ー」
「ひゃっ」
再び肩を叩かれて飛び上がって振り向くと、今度は八重がいた。ジーンズにカットソーといった、普段着に近い格好の彼女は明日美を見てニコニコと笑う。
「今日可愛いね、明日美。気合い入ってるぅ!」
「き、気合い?」
「やっぱり普通のお出かけと違うよね」
含みのある八重の態度に、明日美は戸惑う。
(違う、だって、私なんて)
「八重ちゃん、あの」
「お、川野も来たか。お待たせ」
そこへ俊介が戻ってきて、目当ての店へと移動を始める。スマホの地図表示を見ながら店を探す八重を俊介が覗き込むようにしてみては、「いやぁ? こっちだろ」などと話している。明日美は自然に後ろに下がって、そんなふたりを眺めていた。
(私なんて、無理だよ)
そう思うのに、気持ちは収まらない。
俊介の背中を見るたびにキュッと痛む胸は、もう明日美が自分でコントロールできるものではなくなってしまっていた。