凸凹リレイション

 
 ふたりが通う高校は、電車で二駅乗ったところにある。

いつものように電車を降りてから、同じ高校に向かう学生の波に逆らわず、昨日のテレビの話をしながら歩く。

 明日美は漫画やアニメには詳しいが、芸能ネタにはとんと無知だ。昨日のドラマの話や、ネットで得た情報を話すたびに「えええー」とか、「知らなかったー」とか、大袈裟な程に反応して、必ず最後に一言言う。


「香苗ちゃんって何でも知ってるんだね」


 香苗にとってはそれが面白くもあり、優越に浸れる瞬間でもある。
 お互いを凸と凹という形で例えるとしたら、間違いなく香苗は凸の方だろう。


 校門をくぐり昇降口に入ると、「じゃあね」と軽くかわして、ふたりは別々の靴箱を目指す。クラスが違うので、いつもここで自然に別れるのだ。

 香苗が靴を履き替えていると、後ろから誰かに背中を叩かれた。叩かれた、というよりはどつかれたと言った方がいいほど、遠慮のない叩き方で。


「なにすんのよ!」

「おっはよー、香苗」

「何だ琴美(ことみ)」


そこに居たのは、同級生の尾上琴美(おのうえ ことみ)だ。
ふわふわの緩いロングの髪を揺らし、綺麗に睫毛をカールして、先生にばれないほどの薄化粧を施している。


(うん。かわいい)


 琴美は同類に入るタイプの友達だ。普通に着たらやぼったいだけの制服は、彼女が着るとアイドルが着ている制服のように華やかになる。自分のおしゃれにかけては自信があるつもりだが、琴美はさらに上をいくという感じで誇らしい。

琴美は、靴を履きかえながら、一人階段を上がっていく明日美を見つける。


「アンタ、ホントにあの子と毎日一緒に通ってんだね」


一瞬、動きを止めてしまうほど冷たい言い方。琴美が明日美のことをバカにしているのは明白だった。


「幼馴染だし」

「かまわなきゃ良いじゃん。あんなダサい子」

「色々あんのよ」


香苗は、曖昧に返事をする。
本当だったら、こういう時にかばうのが親友なのかもしれないが、明日美がダサいのは本当の事だ。

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