凸凹リレイション
以前、あまりにも洒落っ気がない明日美に、遊びでアイメイクを施したことがある。
普段の地味顔が一見目を引くようなかわいい顔になった、と心の中で満足した香苗の目の前で、明日美は「やだ。私、似合わないもん」とティッシュをとってキャンバスとなっていた顔をふき取ってしまう。
ウオータープルーフのマスカラがティッシュなどで簡単に取れるはずもなく、明日美の目の周りはパンダみたいに真っ黒になり、それを見てますます泣きそうになった。
香苗はあの時から、明日美に対して小さな不満を抱えていた。
かわいくなりたくないなら、ずっと地味女でいればいい。
もうあんな風に好意を台無しにされるのはごめんだと思った。
「それより、今日の帰りさ、駅前の新しいショップに行かない?」
「あ、いいねー」
琴美の誘いに、気分が上がる。
女の子の話題はすぐに変わって忙しい。
流行りのファッション、可愛い小物、おいしいデザート。
何でも手に入れたくて、だけど何もかもは手に入らなくて。
せめて情報だけでもたくさん味わいたいと、話題は尽きることはない。
そんな波に乗っているのが、香苗は好きだった。
だから、学校に来てしまうと、不思議な程明日美の事は気にならなくなってしまう。
「彼氏も誘って行こうよ」
「うん。じゃあメール入れとくね」
スマホをとりだして、手際良く文章を打ち込んでく。
琴美と仲良くなってから、夜の街で遊ぶことが多くなった。
琴美はいつもボディーガード代わりにと、大学生の彼氏である千野 勝(ちの まさる)を連れてくる。その友達である内村忠志(うちむら ただし)が、今の香苗の彼氏だ。もちろん、琴美の紹介で付き合い始めたのである。
「駅前で7時に待ってます、と。これでいーや」
「ね、行く前にメイクの直しっこしよう。あたしんち寄って行ってよ」
「りょーかーい」
琴美との会話が心地良く過ぎていく。
もう勉強するのが面倒だと感じるほど、夜が楽しみになっていた。