凸凹リレイション

 泣きだす明日美を宥めるように、香苗の手が背中を行き来する。明日美は、幼い日に自転車で転んだ時のことが胸をよぎった。皆乗れるようになったのに、自分だけがいつまでたっても乗れなくて、練習に付き合ってくれた友達さえ呆れて帰ろうとした時だ。あの時も香苗だけが慰めてくれた。

 思い出して、明日美の嗚咽が一度止まる。

(あの時の香苗ちゃんも、怒ってるのかと思ってた……。いつまでもできなくて、イライラして、ため息ばっかりつかれて。だけど香苗ちゃんは言ったんだ)


『あきらめたらダメだって。絶対できるようになるから。今日がダメなら明日がんばろ』


(いつもそうやって、怒りながらも励ましてくれた)


 記憶に勇気をもらって顔を上げたら、香苗の顔は、思ってた以上に優しい笑顔だった。


「弱虫。何でそんなに自信がないのよ」

「だって」

「わざわざアンタの家まで来たのよ? 三笠くん」

「それは」


 単に漫画を貸してくれるってだけで。明日美がそう言おうとした時に、重なるように降って来た香苗の言葉。


「アンタといて楽しかったからに決まってんでしょ?」


 目の前が明るく開けていくような感覚に、明日美は瞬きをした。


「そんなこと……」

「ないって? なんでそんなこと明日美が決めるのよ。三笠くんの気持ちは三笠くんのもんでしょうよ。大体ね、
明日美は自信がなさすぎるのよ。思い出して。なんで三笠くんはあんたと一緒に買い物に行ったの? つまらないやつとだったら強制でも一緒にいかないわよ。
 私だってさ。明日美の事、どんくさいっていつも思ってるけど、一緒にいたくないとは思わない。アンタといると私は強くなれるし、自分の好きな自分で居られる。三笠くんも、そうなんじゃないの?」


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