凸凹リレイション


「香苗ちゃんが……? 私といて……?」


 呆けたまま明日美は香苗を見つめた。

(信じられない)

 ずっと香苗は自分より上にいると思っていた。隣の芝生は、青くて出来が良くて、自分なんて比べられるだけの存在だって。なのに、香苗はこんなことを言う。

(私といたいって思ってくれるの?)


「香苗ちゃん、私」

「とーにーかーくー」


やたらに間延びした声で、香苗は明日美の声を引き取った。


「三笠くんがうるさいのよ。誤解解けって言われてきたんだから、おとなしく言うこと聞いてちょうだい。
……昨日、実は彼氏に振られたの。それでちょっと意地悪したくなった。……ごめんね。悔しかったのよ。まさか明日美に彼氏がいるなんて思わなかったから」

「彼氏なんかじゃ……」

「これからなるんじゃないの?」


 微笑む香苗に、それ以上言葉を続けられなかった。
でも明日美の頭には八重の事もあった。八重が俊介を好きなら、自分が出る幕はない気がする。


「アンタに必要なのは、自分の気持ちちゃんと言うことよ。どうせ曲げられないんでしょ、アンタは。大人しい癖に頑固だもの」

「香苗ちゃん」

「ほら、もう授業も終わる」


香苗の声と共に、終業のベルが鳴り響いた。

香苗に引っ張られるようにして明日美が立ちあがる。見上げなければ目が合わない、いつもの身長差。でも自然に目を合わせられる角度がいつだってお互いのホームポジションだった。


「ごめんね。明日美」

「……香苗ちゃん」

「言えた。……すっきりしたわ」
 

微笑みながら香苗が言うのを見て、明日美の胸で何かが弾けた。

(香苗ちゃんはいつもちゃんと言う。例え間違っていたとしても、自分の気持ちをちゃんと伝える。弱虫な自分には無い強さで、まっすぐに。だから私。――香苗ちゃんと一緒にいたいって思うんだ)


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