凸凹リレイション
「私も三笠くんが好きみたい。ごめん八重ちゃん」
文脈なんか関係なしに、明日美は自分の気持ちを言いきった。力が抜けたようにまた涙が出てきて、明日美は鼻をすする。
そろそろと八重をうかがうと、彼女は苦笑してハンカチを差し出した。
「……八重ちゃん」
「分かるよ、見てれば。でも明日美が認めてくれないのが嫌だった。隠し事されるの、嫌なんだよねー」
目の前の八重がへろっと笑う。おさげの髪が小さく揺れた。
「私、別に三笠くん好きじゃないよ。憧れ。さっきはほら、明日美がいつまでも意地張ってるから言ってみただけだよ。三笠くんより二次元男子の方が好き。そうだな。アニメの『スクカ―』の飛田くんの絵でも描いてよ」
それが嘘か本当かは、明日美には判別つかなかった。だけど、明日美のために八重がそういってくれるのは分かる。明日美は思わず抱きついた。
「八重ちゃん大好き」
「ちょっと、明日美」
「ごめんねぇ。ごめんねぇ」
そっと背中を叩いてくれる八重の手。温かさも優しさも、香苗と一緒だ。
(八重ちゃんも凸だ)
目立つのが嫌いで、自分と同じオタクで。だけど八重はちゃんと凸だ。自分の意見が言えて、人を思いやれる強い人間だ。
自分は凹だと明日美は思う。人の陰に隠れて、何事も起こらないことが幸せで、黙ってやり過ごすことで周りと調和を取ろうとする。まるで、凸と凸を横に重ねたときにできた真ん中にできる凹みたいだ。自分自身だけで存在せず、二つの凸があってこそ形作られる。