放課後、キミとふたりきり。
すると矢野くんは準備していたかのように手の平を差し出すようにして「どーぞ」と短く呟いた。
「あ、ありがとう。すぐ戻るから……」
スマホを握りしめながら、小さく頭を下げて教室を離れた。
詰めていた息を大きく吐き出し、肩を落とす。
こんなことで、わたしは将来大丈夫だろうかと、自分の未来をつい悲観してしまった。
「沢井さん、大丈夫?」
「え? あ、うん。それで徳永さん、わたしに話しって?」
「あ、ごめん。話しがあるのはわたしじゃないんだよね」
「え? じゃあ誰が……」
「彼女に頼まれて」
徳永さんの目線の先を追う。
廊下の角を曲がってすぐにある教室の前に、さっき雑貨店で会ったばかりの藤枝さんがいた。
気安げに手を振ってくる彼女に、手を振り返すこともできず立ちすくむ。
「藤枝さんと、仲良いの?」
うかがうように見てくる徳永さん。
その目はどこか申し訳なさそうに揺れていて、わたしは出かけた言葉を飲みこんだ。