放課後、キミとふたりきり。

手を後ろで組みながら、微笑みを浮かべて中に入ってきた彼女。

その唇はやっぱりつやつやと輝き、長い髪は甘い香りを振りまいている。


矢野くんはハサミを動かしながら盛大なため息をついた。



「また来たのかよ。いい加減にしろよ」

「いいじゃん別にー。っていうか、瞬にちょっとお願いがあってぇ」


矢野くんの肩にしなだれかかるようにかがんだ藤枝さんは、一瞬わたしを見た。

彼女の『邪魔』という心の声がはっきり聞こえたけれど、席を立つ気にはなれなかった。


栄田くんの必死な声が、茅乃やクラスメイトの応援する声が、まだしっかりとわたしの心の中でこだましている。



「断る」


はっきりNOと言ってくれた矢野くんにほっとした。

でも頬がゆるんだところを藤枝さんに見られ、彼女がそれに面白くなさそうな顔をしたことに気付く。


ああ、なんだかいけないスイッチを押してしまったような。
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