放課後、キミとふたりきり。

案の定、藤枝さんは矢野くんの腕を胸に押し当てるようにして抱きしめる。



「ひっどーい! 話聞くくらいしてくれてもいいでしょ!」


甘えるようにぐいぐいと引っ張る元カノに、矢野くんは仕方なさそうに手を止めた。


「うるせぇなあ。何なんだよ」



反応を示した矢野くんに、艶めく唇が満足げに微笑む。

まつ毛をきれいにカールさせた目がちらりとこちらを見た。


写真を握りしめながら、感じるのは敗北感。



「んふ。あのね、数学の問題でわかんないのがあるの。瞬、数学得意じゃん? 教えてくれない?」

「はあ? めんどい。職員室行って数学の矢作にでも聞いてくればいいだろ」

「それがさぁ、いま職員会議中なんだって。ねぇ、ちょっとだけいいでしょ? お願い!」


すぐに終わるからとせがまれて、矢野くんは時計をちらりと見てから頭をかいた。


「……ったく、しょうがねぇな」



えっと、思わず矢野くんの顔をまじまじと見た。

いまの「しょうがねぇな」はもしかして、OKという意味だろうか。
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