放課後、キミとふたりきり。

よし、言えた。

ちゃんと笑って言えた。


笑顔が不自然になっていないといいんだけど。


そんなわたしの心配は杞憂だったようで、矢野くんは気にした様子もなく席を立った。



「おら、さっさと行くぞ」

「あん。待ってよー」



さっさと廊下へ向かう矢野くんを、藤枝さんが小走りで追いかける。

甘い匂いが離れていく。



「つーかなんだよ、千奈ちゃんて。お前沢井と仲良かったわけじゃねぇだろ」

「えー? ちょっとねぇ。それよりさあ、英語もわかんないとこあるんだけどー」

「はあ? ざけんな。見てやんのは数学だけ」

「ケチー。でも瞬は優しいから、最後にはなんだかんだ教えてくれるでしょ?」

「甘ったれんな。うぜぇ」



ひどーい、と笑いながら、藤枝さんが顔だけこちらを振り返る。

ひらひらと機嫌よさげに手を振って、彼女は矢野くんの腕に抱き着くようにして廊下の向こうに消えていった。


苦いものが口の中いっぱいに広がっていく。
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