放課後、キミとふたりきり。
ぽつんとひとり残されて、椅子と机だけの空間をぼんやりと眺めた。
いつもクラスメイトが騒ぐ賑やかな教室を、妙に広く感じて寂しくなる。
掛け時計の針はとっくに5時を通り過ぎ、6時に差しかかろうとしていた。
もうすぐ下校時刻だ。
運動部以外の生徒は帰宅しなくちゃいけない。
「結局、ちっとも聞き出せなかったなあ……」
矢野くんを怖いと感じることがなくなって、ようやくこれからというところだった。
もう少し時間があれば、もっとまともに会話ができて、転校についてのとっかかりも見つけられるかもしれなかった。
もう少し時間があれば、矢野くんの心の扉を開いて、中に入ることや、中から出てきてもらうこともできたかもしれなかった。
けれどもうタイムアップだ。
矢野くんは今日用事があるようだった。
きっとこれから家に帰って、引っ越しの準備を急いですすめるんだろう。