放課後、キミとふたりきり。

教科ごとにラベル分けしてあるそれをぺらぺらとめくると、ページのあちこちに人物画のデッサンがあった。


教科書の影で居眠りしている姿。

机の下でこっそりとスマホをいじっている姿。

前の席の男子と笑って話している姿。

真面目にノートをとっている姿。

椅子に座ったまま伸びをしている姿。

それはすべて、授業中の矢野くんを自分の席から見て描いた絵だ。


集中力が切れて授業に身が入らなくなると、いつも隠れて彼をデッサンしていた。

描くたびに淡い恋心は色を重ねて、いまでは隠し切れないほどになっている。


もう授業中の彼の横顔を描くことができなくなってしまうのか。

わたしたちの教室から矢野くんが消える。

そして他の学校の、どこかの教室に矢野くんがくわわる。

わたしじゃない誰かが、矢野くんの横顔を見る毎日になる。


仕方ないと頭ではわかっているのに、受け入れられない。

寂しいし悔しいし、とても悲しい。
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