放課後、キミとふたりきり。
こんなに好きなのに、彼がいなくなる。
わたしの気持ちなんて知らないまま、いなくなってしまう。
「……そんなの、いやだ」
ぎゅっと眉を寄せ呟いた自分の声。
それは間違いなくわたしの本音で、なぜかわたし自身の背中を押した。
決意を胸に今日の午前中の授業で描いた、いちばん新しい矢野くんのデッサンをハサミで切り取る。
わたしにとって見慣れた、黒板を見つめる彼の横顔。
鼻筋から唇、顎へのラインがきれいで、何度も描いてどんどん好きになっていった。
矢野くんがこわかった。
でも彼自身がこわかったわけじゃない。
彼に……矢野くんに嫌われるのがこわかった。
口調はちょっと乱暴だし目つきも鋭いけれど、本当は思いやりのある優しい人だってことを、わたしは知っている。
「……よし」
ペンを置き、アルバムの重たい表紙をパタリと閉じる。
時計の針は6時に差し掛かろうとしている。