放課後、キミとふたりきり。
でも、いいように使われているとか、それが嫌なのに言えないとか、そんな風には思っていなかった。
生徒玄関で靴を履き替えながら決意する。
誤解されているなら、きちんと話してわかってもらおう。
きっとわかってもらえると、矢野くんを信じて。
「あの……さっき矢野くん、聞いたよね。譲れないものはないのかって」
「ああ」
「わたしにも、ひとつだけあるよ。譲れないもの」
靴をはくために離れた手が、また繋がれる。
握った手にきゅっと力がこめられ、なんだか「しっかり聞くよ」と言われているみたいで嬉しかった。
「うち、両親が離婚してるんだけどね。わたしが小学生の時、離婚でもめてた両親が話し合いをする間、わたし親戚の家に預けられたの。田舎で、友だちもいなくて、ひとりぼっちで、居場所がなかった」
祖母と伯父一家が住む家だった。
近所には他の親戚も住んでいて、みんな農家で年寄りも子どもも家の仕事をしていた。
何もわからないわたしはお荷物のようで、広く雑然とした家の中で、いつもぽつんと留守番をしていた。
本当にひとりぼっちだと、何度泣いたことだろう。