放課後、キミとふたりきり。

見ちゃった? なにを?

わたしが首を傾げると、矢野くんは非常に言いにくそうに、ゆっくりと口を開いた。


以前教室で、わたしの机の下に落ちていたノートを拾ったこと。

そしてそこには、男子生徒の絵が描かれていたこと。

その絵の男子が、自分とよく似ていたこと。

もしかして、と授業中わたしの方をうかがっていたら、こっそり絵を描いているところを目撃したこと。


それらをためらいがちに話す矢野くんに、わたしはもうどんな顔をしていいのかわからなくなった。


まさか、誰にも知られていないと思っていたあの授業中の絵を、モデル本人に見られていたなんて。



「恥ずかしくて死にたい……」

「はは。俺は嬉しかったけどな。沢井の絵のファンだし」

「ふぁ、ファン? わたしの絵の?」

「そ。いまどんな絵描いてんの? 今度美術部見に行っていい?」

「見学はOKだから構わないけど……」

「やった。実は学園祭の時も、美術部の展示見に行ったんだ。沢井のお母さんの絵だったな。やっぱ好きだわって思ったよ」
< 212 / 223 >

この作品をシェア

pagetop