放課後、キミとふたりきり。
見ちゃった? なにを?
わたしが首を傾げると、矢野くんは非常に言いにくそうに、ゆっくりと口を開いた。
以前教室で、わたしの机の下に落ちていたノートを拾ったこと。
そしてそこには、男子生徒の絵が描かれていたこと。
その絵の男子が、自分とよく似ていたこと。
もしかして、と授業中わたしの方をうかがっていたら、こっそり絵を描いているところを目撃したこと。
それらをためらいがちに話す矢野くんに、わたしはもうどんな顔をしていいのかわからなくなった。
まさか、誰にも知られていないと思っていたあの授業中の絵を、モデル本人に見られていたなんて。
「恥ずかしくて死にたい……」
「はは。俺は嬉しかったけどな。沢井の絵のファンだし」
「ふぁ、ファン? わたしの絵の?」
「そ。いまどんな絵描いてんの? 今度美術部見に行っていい?」
「見学はOKだから構わないけど……」
「やった。実は学園祭の時も、美術部の展示見に行ったんだ。沢井のお母さんの絵だったな。やっぱ好きだわって思ったよ」