放課後、キミとふたりきり。
そうだ。学園祭では出勤する母の背中を描いた。
放課後の様子じゃなくても好きと言ってもらえたことにほっとする。
人とのコミュニケーションが苦手なくせに、人物画ばかり描いている自分ってどうなんだろうと思っていたけれど、矢野くんに認めてもらえて、好きなものを描いていいんだと自信を持てた気がする。
人の気配のない廊下を、手を繋いでゆっくり歩く。
陽が落ちた廊下は薄暗いけれど、静かで冷たい空気がなんだかいつもよりきれいに感じた。
ああ、幸せだな。
繋いだ手の温もりの優しさに、じんわりとこみ上げてくるものがある。
けれど矢野くんのもう片方の手にあるアルバムが視界に入ると、一気に気持ちが沈んだ。
「矢野くんとこうなれて嬉しいけど……残念だな」
「残念って?」
「最後だからっていうのがあったから、矢野くんに気持ちを伝えられたわけだけど。まさかこうなるとは思ってなかったから……」