放課後、キミとふたりきり。
わたしたちが口を閉じると、静かな廊下は沈黙で満ちて耳が痛いくらいだ。
なんだかおかしい。
矢野くんと話しがかみ合っていない。
まさか付き合うことになっても、転校することを秘密にする気でとぼけているんだろうか。
いや、そんなまさか。
そこまでする必要があるだろうか。
「あの……それは、矢野くんだよね?」
「俺?」
自分を指さす矢野くんに、こくりとうなずいてみせる。
矢野くんが転校するというから、わたしは言わせ隊の大役を引き受け、放課後に臨んだんだから。
「だって矢野くん、明日転校するんでしょう?」
「はあ?」
矢野くんは自分を指したまますっとんきょうな声をあげた。
そしてぎこちなく笑って「なんで俺が転校すんの?」と質問を返してきた。
嘘をついたり、誤魔化しているようには見えない。
そもそもそういうことができない性分な人のはずなんだ、矢野くんは。