放課後、キミとふたりきり。

騒ぎの中心にいる小柄な栄田くんに目をやって、茅乃が肩をすくめる。


わたしの親友と、矢野くんの親友が主導だったのか。

それにしたって……みんな演技が上手すぎる。


最初の「矢野が転校する」と栄田くんが教室で叫んだあたり、全員俳優になれるんじゃないかというくらい違和感がなかった。

それともわたしが鈍すぎるんだろうか。

視聴覚室での栄田くんの叫びにも、心が震えるくらい感動したんだけどな……。




「じゃあ……」



まだ手を繋いだままの、憧れの、好きな人を見上げる。



「じゃあ、矢野くんは本当に転校しないの……?」



涙目で、声の震えているわたしを見下ろし、矢野くんはニッと白い歯を見せ笑った。



「しねぇよ。俺はずっとここにいる」



その答えに、涙がまた溢れ出て止まらなくなった。

でも今度の涙はとてもとても温かくて、心にぽっかりと空いていた穴すら埋めていくように、染みこんでいく。
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