放課後、キミとふたりきり。
開きかけた口を、ゆっくりと戻す。
あとで言う。絶対に言う。
そう心に誓いながら、彼を目で追った。
ポケットに手を入れて、眠たそうにあくびをしながら現れた矢野くん。
いつもと変わった様子のない彼を見ると、明日転校するなんて嘘じゃないのかと疑いたくなってくる。
しんと静まり返るクラスに何か異変を感じたのか、矢野くんがいぶかし気に顔を上げた。
「……何みんなして、こっち見てんだよ?」
矢野くんの低い声に、クラスメイトたちはそれぞれハッとしたように目をそらしたり、ぎこちなく笑顔を作ったりする。
かく言うわたしも、様子をうかがいながらも彼と視線が合わないようにするのに必死だ。
「お、おー矢野。久しぶり! 元気だった?」
「はぁ? 頭でも打ったか栄田」
「や、矢野! 栄田が頭おかしいのはいつものことだろ!」
「そりゃそうだけど……」