放課後、キミとふたりきり。
藁にもすがる思いで、前の席の茅乃に小声で話しかける。
さっき裏切られたばかりだけれど、本当に他に頼れる相手がいないのだ。
それなのに、茅乃が前を向いたまま「大丈夫だってば」なんて軽く返してくるので、本気で泣きたくなる。
「全然大丈夫じゃないよ。まともに会話できるかすら怪しいのに」
「だから大丈夫だって。千奈はビビリすぎ。とって食われるわけじゃないんだし、もっと肩の力抜いてこ?」
「抜けたらこんなに悩まないよ……。だいたいさ、矢野くんもわたしに何か言われたりされたりするの、嫌だと思う。栄田くんにも話していないような大事なことを、わたしに話してくれるはずないじゃん」
つい恨みがましく言った時、ようやく茅乃はちらりとこちらを向いた。
「やだ。あんたもしかしてまだ春のこと気にしてるの?」
春のこと。
それはわたしにとって、忘れたくても忘れられない、ズキズキとした痛みを伴う思い出。