放課後、キミとふたりきり。

 「もう忘れなよ。矢野も悪気があって言ったわけじゃないんだし」


顔を前に戻しながら若干あきれたように言われ、返答につまる。

まるでわたしの心が狭いと言われているようで、面白くない。


「別に矢野くんを恨んでるとかじゃないよ。わたしじゃなくて、矢野くんが嫌だろうって思って……」

「それこそなんでよ? 一緒に学級委員もやってるし、普通に話してるじゃん」


あっけらかんと言い放つ親友に唖然として、目の前の後頭部を見つめた。

癖のないさらさらの黒髪が、無性に憎らしくなる。


「い、一緒にやってるって言っても、ほとんど矢野くんが司会進行で、わたしは言われた通り黒板に書きこんだりしてるだけだよ。行事の時だってみんなをまとめるのはいつも矢野くんで、わたしは何もしてないし。それに話してる内容も、必要最低限のことばっかりで……」


「千奈」


さっきよりも少し強い声に呼ばれ、口を閉じる。

前を向いている茅乃の顔は見えないのに、どんな表情をしているのかなんとなくわかってしまう。

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