Who?
アオイは耳を澄ました。
 井上ユミの声が聞こえた。
「あ、ジャズじゃん。それもスタンダード中のスタンダードナンバー」
「『枯葉』か」
「知ってるねえ」
 井上ユミは破顔した。
「夜に聞くよ」
「ジャズは夜に聞くのがいいわ。気分に浸れる」
「だね。この場には合ってないね」
 アオイは音の聞こえる方に振り向いた。たしかに人だかりができていた。
「この曲を演奏したい気持ちもわかる」
「なんで?」
「心が枯れてるからよ。枯れてるからこそ咲かせようと思って集まり耳を傾ける」
 その時の井上ユミの表情は物憂げで壊れそうなぐらい寂しげな表情を一瞬だけ見せた。
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