Who?
 執着。
 私はかつてなにかに執着していなかっただろうか。ぽっかりと空いた記憶の空洞が埋まることのない悲鳴を上げている。頭を押さえ、こめかみを揉み、舗装の良い道を歩くが頭痛は一向に収まらなかった。精神的に、参っていた時期がある。誰しも何かしらの悩みや不満を抱えているものだ。抜け出したくても抜け出せない、足掻けば足掻くほど傷口がどんどん広がっていく。人間的不協和は身体を蝕み精神を崩壊させていく。
 破壊。
 私は一度、壊れたのだろうか。わからない。
 頭を横に振った。
 気づけば館の前に来ていた。扉は大きく、プレートに、ウェルカム、と印字されていた。ケーキの上の誕生日プレートのように。
 私はノックをした。
 反応はなかった。
 私は再度、ノックをした。
 扉の奥で人の気配がした。気配がした数秒後、扉は音も立てず開いた。
「お待ちしておりました」
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