Who?
「だって、お母さんはピアニストになりたかったんじゃないの?」
「その通りよ。今でも思いは叶わないわ。あなたには隠していたけど。左手の小指が機能してないのよ。敵のナイフで切られてね神経ごと、ズバッとね」
 母親は淡々と時折笑顔を浮かべながらいった。クリームシチューを作るみたいに淡々と。シチューやカレーライスってね海軍料理なのよ、と雑談を母親としたのが遠い記憶にある。だが、今はいい。
「頭が混乱してきたわ」
「カナエ。聞いてカナエ。ピアノは武器になるわ。プロになるの。必死に練習してプロになりなさい。世界が広がるから」
 母親は優しい声でいった。
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