Who?
「なぜ、そこまでわかっているのに逃げなかったの?」
「逃げる?君は覚えているか?ジャズピアノコンテストで優勝した際にわたしに握手を求められたことを?覚えていないだろ。握手をした際に、君の髪の毛が一本落ちたんだ。わたしは髪の毛を拾って、自宅に持ち返って、髪の毛のDNAから記憶データを蓄積し、わたしの夢とリンクさせ、君の夢にアクセスした。できないと思うか?できるんだよ夢の中ではね。夢の中にはたくさんの記憶が詰まっている。無意識下の君は、繊細で儚げだ。罪悪感に苛まれ、本当は殺しをしたくない。でも、殺すしかない。もし殺すことをやめたら父親に殺されるから。本当はピアノ一本で世の中を渡っていきたい。コンクールで優勝したのは君にとってはターニングポイントだった。矛盾と葛藤。それが今の君だ。君に興味があった。人には表と裏がある。君はどうだ?理想の表と裏だ。表の顔はピアニスト。裏の顔は暗殺者。これほど興味深い対象はいなかった。研究を前進させることができた。まさに昨日だ。わたしの夢に君が出てきた。わたしを殺すという依頼をされている君だ。君の夢には常時アクセスしていたからね」
「あなたは死ぬの?生きるの?」
 カナエは平静を保った。
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