Who?
 アオイは電車に乗り、臭客に紛れ、己の臭気を紛れさせた。不快な顔はどこにも見当たらず、自分自身のにおいもわからなくなっていた。電車が各駅で止まり、雨に濡れた乗客がなだれこみ終電間際の車内は混んだ。電車の両開きの扉が開くたび、清涼な空気が入り、革靴のぴちゃりとした音が車内に響いた。雨は強く、車内の窓を打ちつけた。が、アオイの停車駅が近づく頃には、雨は弱くなり、そして、止んだ。
 アオイの家まで数百メートル。一人暮らしの一Kマンション。料理は勉強中とうそぶいてはいるが、包丁を握ったことがない。おそらくこの先もすることはないだろう。
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