Who?
「落とした?」
 アオイの言葉が目の前で落ちた。
「そう。そのまま。深い意味はないの。落ちた、ではなく、落とした。楽譜を落とした。ピックを落とした。明日を落とした、とかね」
 井上ユミはゲラゲラと笑いだし、アオイに向かい手招きし、落とした紙に向かい指をさした。
 拾え、というサインなのだろう。
 アオイは命令されるのは好きではない。だが、自然と体が動いた。緩めた歩行は停止したが、加速した。井上ユミの魅惑的な視線をすり抜け、紙が落ちた場所に辿り着き、彼は屈んだ。アオイは紙に触れた。そこには文字がはっきりと記してあった。その文字の意味を吟味するうちに、彼の背中に重力が加わった。
 アオイは振り向いた。
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