Who?
元来がせっかちな性格であり、それでいて几帳面で、やや潔癖性な嫌いがある。よく研がれた包丁でサンドウイッチ用の食パンをカットすることを好む。かつて交際していた女性に、「サンドウイッチと私、どっちが大事なの」と問われ、「君だよ」と答えたにも関わらず、「偽善者」と平手打ちを食らわされた日には、人生とサンドウイッチを呪ったものだ。が、当時はそれでよかったのだ。サンドウイッチの(主にタマゴサンド)美味しい作り方を模索し、あらゆる角度から観察する度に、女性の扱いが疎かになってしまったことは確かだ。執着と集中力は諸刃の剣であり、一歩間違えば破滅が待っている。少しばかり前の僕はそうだった。
 この空間、つまりは直方体のエレベーター内というのは思考が走馬灯のように降り注ぎ、いらぬことまで思い起こさせる。思い起こすのはいいが、女性の顔や名前や、または知人や友人や両親の顔は輪郭は伴うが表情は曖昧模糊としている。残像がぼやけ記憶の画質はうつろで暗い。僕の心の投影だろうか。
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