Who?
「どうやったらカナエちゃんみたいにうまくなるかな?」
 友達に質問されてもカナエには明確に答えることができなかった。答えるのは簡単。
 寝る間を惜しんでの練習
 この一文をいえばいい話。
 口ごもるカナエに、「どうしたの?」と友達はいった。カナエの目元から涙が出ていたらしい。
「うまくなるなんて考えない方がいいよ。楽しむのが大事」
 カナエはいった。
「わたしはうまくなれないってことね」
 どうやら友達にとっては嫌味に聞こえたらしい。言葉というのは難しく、捉え方次第で、相手の心情を深く抉り、闇を表出させる。
 カナエの人生の闇はもしかしたらこの瞬間から始まったのかもしれない。
「待って」
 カナエは手を伸ばした。学生にしてはすらりとしすぎた手の先に、友達はもういなかった。
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