Who?
「起こしちゃった?」
「大きな音には敏感なの」
「それは古代から人間が狩る側と狩られる側に属していた記憶の名残りね。あなただけではないわ。みんなそうなの。音によって危機を最小限に食い止めるの」
「自分の名前は覚えていないのに、雑学の知識は豊富なようね」
 カナエは皮肉をまじえ部屋に入った。
「自分でも怖いわ。今が」
 女はいった。
「今なんてすぐ終わるわよ。すぐに未来がくる」
「あなたも面白い考えを披露するのね」
 女は手のひらを鍵盤に乗せた。音は鳴らさなかった。
「記憶のないあなたに言われたらおしまいね」
「それ皮肉?」
「いえ、冗談よ」
 二人は笑みをこぼした。
「ピアノの音色が好き」
 女は遠くを見つめ、唐突にいった。
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