自殺という名の地獄
「あなた方はどうしてこうも命を粗末にするんでしょうねぇ。実に嘆かわしい」
男の深いため息が聞こえる。
「だ、誰なんですか。あなたは」
「申し遅れました。私はあなたの案内人を務めさせていただく者です。私共の世界では名前という概念がございませんので、特に名前は持ち合わせておりません。あらかじめご了承ください」
「は、はぁ」
なんとも不思議な雰囲気の男だ。不気味さすら感じる。
「ところで、あなたはどうして自殺なんかしようと思ったのですか?」
「自分がつくづく不必要な人間なんだと気づいたからですよ」
「と、いいますと?」
「職歴がないのもあって、なかなか仕事も決まらないし、今だに童貞だし、友達も、彼女もできないし、何をしても楽しくないし、もう死んだ方が楽になれるのかなって思ってさ。それに、俺みたいな奴なんていてもいなくても同じかなって。むしろ、存在してるだけで迷惑っていうか。まぁ今も自殺して迷惑かけているわけだけど」
初対面の奴に俺は何を言ってるんだ。と、途中から思った。けど、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。この苦しみを。
「あなたはどうしようもない馬鹿ですね」
男は吐き捨てるように言った。その男の言葉に、これまで溜めに溜めてきたものが爆発しそうになった。
「どういう意味ですか」
「そのままの意味ですよ。馬鹿だから馬鹿だと申したまでです」
「たしかに、俺は馬鹿なのかもしれない。けど、あんたに俺の何が分かるっていうんだ」
感情が高ぶり、思わず声を荒げてしまった。そんな俺とは対照的に、男は至って冷静だった。
「分かるからこそ申し上げているのですよ」
「分かるって、何をだ」
「あなたの全てですよ。過去も、そして未来も」
だんだんこの男のことが胡散臭く思えてきた。俺は感情の高ぶりをなんとか抑えつつ、警戒心を高めた。
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