自殺という名の地獄
「ちょっと、訊いてもいいか?」
「はい。なんでしょう」
「もし、あのまま俺が自殺せずに生きていたら、俺の人生はどうなっていたんだ?」
こんなことを訊いてもどうにもならないのは分かっていた。でも、それでも訊きたかった。たとえ結果的に後悔したとしても―。
男は少しの間、何やら考え込んでいた。しばらくして、ゆっくりと口を開いた。
「本来であれば規則でお教えすることはできないのですが、あなたが"それ"を知ることで自殺という愚かな行いを悔いることができるかもしれません。ですから、今回は特別にお教えいたしましょう」
男は懐からハーフリム型の黒縁メガネを1つ取り出した。
「これをかけてください」
まさか、と思った。
「まさかとは思いますが、このメガネのレンズに映像が映し出されるとか?」
「御名答。実に近代的だとは思いませんか?」
「は、はぁ」
まるでどこかのスパイ映画のような代物だ。俺が想像していたものとは少し、というか、だいぶ違っていた。
「杖とか、そういう古典的な物の方が良かったですか?」
「いや、別になんでもいいです」
俺は早速メガネをかけてみた。かけてみた限りでは一見なんら変哲もない、ただのメガネだ。
「覚悟はよろしいですか?」
「・・・はい」
男は俺の頭の上に手を置くと、瞑想し始めた。男が手を置いた辺りから、ほんのり暖かいものを感じる。死んで何も感じないはずなのに、なんだか不思議な感覚だ。
しばらくすると、目の前が歪んで見え始めた。徐々に風景が変わり始める―。
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