私のエース
 「お父さん残念だったな」

式場で担任が心配してくれている。
本当は元の恋人の傍に付いていてやりたいのだと思いながら二人を見ていた。


私が気付いていないと思っているのだろう。
二人共立場をわきまえた対応をしていた。


「松尾。忌引きは欠席にはならないから……」

担任はそう言葉を掛けてから通夜の会場にいた学校関係者の元に向かった。


私はまだこの時、親友に降り掛かった悪夢の連鎖を知らずにいた。
勿論担任も知らないはずだった。




 「松尾。頑張れよ」

担任は優しく声を掛けてくれる。
本当はかっての恋人を心配しているのだと思ったけど、何も知らない振りをすることにした。


親戚の手前、担任の傍にいけない継母。

本当は元の恋人に甘えないのだろうと思う。


「先生。実は私、転校を考えてます」
担任の元へ行き、私はそう呟いた。
キョトンとした顔が何を意味しているのか、私は知っていた。




 黄泉の国への旅支度が整い、遺体は棺にいれられた。
遺体の入っていないのが棺で、入っているのが柩なんだって……
何時かそう聞いたことがある。




 通夜の会場に恋人が来ていた。
きっと練習を途中で切り上げて寄ってくれたのだと思った。


継母が気付いて私に目配せをしてくれた。
でもその場から立ち去ることが出来ないから、そっと頷いた。
父にはまだ話していなかったけど、継母には紹介していたんだ。
私のエースを……




 高校に入った時一目惚れした彼は、サッカー部のスター選手だった。


私にはみずほと言う親友がいた。
彼女はサッカー部のエース候補と付き合っていた。


人が羨むほどの物凄いラブラブだった。




 彼女の名前は岩城みずほ。
彼女の恋人の名前も磐城瑞穂。
そう二人共、いわきみずほだったんだ。


磐城君は中学時代背番号《10》を付けていた。
以前のサッカーのエースナンバーだ。
今ではスーパースターが付けている番号がそれになるようだけど……


二人の馴れ初めやエピソードは保育園時代から知っている。
でもまさか犬猿の仲だった二人が、ラブラブカップルになろうとは……


だから尚更二人に興味を抱いたんだ。
私も何時の間にかサッカー部を応援していたのだった。


その行為が彼との出逢いを演出してくれたのだ。


彼を見た途端にビビっと電機が走った。
その瞬間。
私は完全に彼の虜になっていたんだ。




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