私のエース
 町田百合子と福田千穂はまだ其処に居てくれた。

どうやら二人は真剣に話し合っているようだった。

俺と有美はその背中越しの席に腰を下ろした。


小型録音機のスイッチを入れる。
それと同時にじっと聞き耳を立てる。


有美は鞄の中から手鏡を出した。

化粧する真似をしながら、二人の様子を伺う。


ドキッとした。
みずほのコンパクト越に見ていたウインクを思い出したがら……


(ヤバい。向こうに気付かれる!? 張れたらどうする。俺は女装中なんだ!)


気が気でなかった。


(ちょっとお化粧した程度で校則違反にする学校なんだよ。俺をヒヤヒヤさせないでくれよ)

俺はドキドキしながら二人の様子を確認した。
だけど気付いていないようだったので胸を撫で下ろした。


でも本心では、この二人が事件の関係者でないことを願っていた。




 運ばれてきたコーヒーを飲んで、少しだけ落ち着いてきた時遂に二人が話し始めた。


「ねえ、次に死ぬのは誰にする?」
福田千穂だった。
俺は自分の耳を疑った。


「だって三連続なんでしょう? 誰かが続かなきゃ意味無いと思うのよ」
千穂はさも当たり前のように言った。


(まさか……)
そう思った。
俺達は幼なじみで、保育園でもオモチャを取り合いする位仲良しだったのだ。




 (やっぱり……)

そう思った瞬間、俺の頬を熱い物が零れた。


(あ……俺泣いてる……)

慌てて指先でその事実を確認した。


みずほが死んでから、今まで泣けなかった。

だから余計に情けなかったのだ。


訳が解らず……
悩んでいた。

何故泣けないのか?
本当にみずほを愛していたのか?

そう思い、苦しんでいた。


でも……
やっと涙が出たら、今度は止まらない……

俺はもう、お手上げ状態だった。


(でも何故だろう? どうして此処で、このタイミングで泣くのだろう? 俺にとって福田千穂はそんなにも大きな存在だったのだろうか?)




 「そうね。やはり磐城瑞穂君かな?」
飄々と町田百合子が言う。


「イヤよ。だったらキューピット様に岩城みずほを殺して貰った意味がないもの」

千穂は興奮しているのか、声のトーン違った。


(今確かに、キューピッド様に岩城みずほを殺して貰った意味がないと言った。やはりこの二人がみずほを殺したのか? 俺は……知らなかった……千穂が俺に恋をしていたなんて。本当に知らなかったんだ!!)




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