私のエース
 「ああ、確かに」
叔父さんはそう言いながら話を続けた。


「無銭飲食だと電話が来たんだ。でも違っていた。財布を取られたんだ、其処の客に。それは後で判った。現金を抜かれた財布が店の脇の通路から見つかって」


「それがアイツ?」

叔父さんは頷いた。


「元暴走族だと言うだけで捕まえたんだよ。でも俺にはか弱い人間に見えた。だから……」


「だから親身になって面倒を見たんだよね」


「ああ……なのに」

叔父さんは何時しか拳を握っていた。




 「アイツが服役する羽目になった事件の捜査だっていい加減なものだった!」

珍しく叔父さんが、興奮していた。

こんな叔父さんは始めてだった。

俺は奥さんの質問をしたことを後悔していた。


「俺はアイツが事件現場に居なかったことを知ってる! なのに、寄って集ってアイツを共犯に仕立て上げた! ホンボシの自供だけでな……か」

叔父さんは握り拳を左の手のひらで包んだ。

そうやって、やっと自分を抑えている。
叔父さんの痛みが俺の深部に伝わった。




 出所したアイツは、妻の行方を探す。

でも見つけ出すことは出来なかったらしい。


そして怒りの矛先は叔父さんに向かう。

叔父さんと結婚したばかりの新妻へ向かう。


叔父さんは心の奥底では否定しながらも、そう思っていたのだ。


でも……

主張したアリバイが今回は認められ、釈放されたのだった。


それは目撃者のいる確かな物だったらしい。


「本当は、アイツを信じている」
叔父さんは辛そうに言った。

俺はそれ以上言えなくなった。


「なあ、瑞穂」
でも叔父さんは、俺を気遣ってくれた。
叔父さんは掌で俺の後頭部を包み込んで、胸元に引き寄せた。


「瑞穂、悲しい時には泣け。俺に遠慮は要らない」
本当は自分も苦しいはずなのに……
俺を励まそうとしてくれていた。




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