私のエース
 俺は結局、何も出来ないままでいた。


そんなある日。
先生と松尾有美の継母との結婚式が身内だけで執り行われることになった。
離婚なら法律上六ヶ月待たなければならない。
でも幸い、先生の恋人は籍に入っていなかった。
だからすぐに結婚出来たのだった。




 ジューンブライド。
女性なら誰でも憧れる、六月の花嫁だ。


有美の元継母は純白のウエディングドレスだった。
それは純潔の証しだった。
俺はこの時、先生の言う通りあのラブホで何もなかったのだと確信した。


有美は彼と一緒に、控え目なドレスを着ていた。




 俺はそんな光景を陰から見守っていた。
まだ……
とてつもない何かが眠っているように思われたからだ。


『有美にとては完全犯罪でも、それは不完全だ』
俺はきっと真相を探し続け、そう言ってみる。


三連続死は、有美の父親の突然死が切っ掛けで始まったのだから……




 俺は又〝死ね〟と書かれたみずほのコンパクトを見つめていた。


町田百合子が書いた言葉が邪悪な魂を揺さぶり起こし、自らの命さえ破滅に導いた。
あの後で有美に、キューピット様は大人数で遣ってはいけないんだと言われた。
だから……
更に強力になったのかも知れない。


だからみずほのコンパクトには、とてつもないパワーが秘められている。
そう思った。


そっとみずほのコンパクトに触れる。

その時、葬儀会場で大泣きしていた奴の顔が脳裏に浮かんだ。


(そうだ俺にはもう一人、木暮悠哉って親友がいた)

俺は何となく、木暮の通っている高校へとペダルを漕いでいた。

それが次なる事件の幕開けになろうなんて、思ってもいなかったのだ。


俺はただ、みずほとの馴れ初めを知っている奴に俺の本音を聞いてもらいたかっただけだったんだ。




 俺はみずほの葬儀会場にいたかっての親友を訪ねることにした。

ソイツは木暮悠哉と言って、俺の中学時代の親友だった。


サッカー部のエースになると言う、同じ夢を見ていた仲間だった。
少年サッカー団から二人だけ選ばれてFC選抜にも呼ばれた。
だから木暮も橋本とは顔見知りだったんだ。


彼も俺同様に身長が低かったが、パワーだけは超一流だった。

でも兄貴の不遇の最期を見て、意気消沈してサッカーを辞めてしまったのだ。
結果俺がエースになった。
もし……
そいつが残っていれば、俺は……
そんなことを俺は何時も考えていた。



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