私のエース
 木暮は俺とみずほの付き合い出したいきさつを知っていた。
だから、みずほが殺されたと解った時物凄く腹を立ててくれたんだ。


俺はどうしようもなくて、あの日事件の全てを木暮には話したんだ。

千穂の俺に対する恋心まで話したら……


『それは感じていた』
ダメ出しにそう言われてしまった。


俺はどうしょうもなくなって、全てがキューピッド様をもてあそんだ結果だったとも打ち明けていた。


今思うとどうかしていたと思う。

なぜあんなにムキになったのだろ?


それはきっと、俺が木暮を頼ったからなのだ。
木暮は確かに俺の親友だったんだ。
だから聞いてもらいたかったんだ。
だから余計に自分を正当化したのかも知れない。




 玄関のチャイムを鳴らすと、木暮が飛んで来た。


『聞いてもらいたいことがある』
さっきそう電話しておいたからだ。



「あれっ瑞穂、少し大きくなってないか?」

流石に俺の親友だ。
一番気にしていることを然り気無く誉めてくれる。


(ん!? っていうことは少し伸びたのかな?)

俺は嬉しくなって、木暮の次の言葉を待った。


「ホラ、兄貴の葬式の時確かこん位だった」
木暮はそう言いながら、玄関の扉に付いているチェーンを指差した。


「なぁんだ、中学の時と比べてか? 当たり前だろうが」
俺は少しがっかりしながら、靴を揃えて木暮の後を追った。




 木暮は兄貴を不運な事故で亡くしていた。
エレベーターにネックレスが引っ掛かり、そのまま移動されたので首を斬られてしまったのだ。
あまりに残忍な姿を見た木暮は意気消沈して、サッカーを辞めてしまったのだった。


「あっそうだ、有美は普通のアパートに住むそうだ。何でも初めて家政婦なしで生活するそうだ」
いきなり木暮は言った。


「家政婦なし?」
俺は有美が大邸宅に住んでいたことは知っていた。
家政婦を雇っていたとは知らなかった。


「有美んとこに新しい母親がいて、確か家政婦がわりに……なんて言ってたよ」


「えっ、そうなのか? 話しが大分違うな」

木暮はおかしなことを言い出した。




 「有美は自分が今まで住んでいた家を慰謝料として渡して、アパートで例のエースと暮らすそうだよ。アイツら結婚したそうだから」

木暮の言葉に俺は更に驚いた。


「だってアイツまだ十五歳だろうが……」

思わず俺は言った。



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