私のエース
 「ところがどっこい。有美は十六歳なんだよ。ホラ、日本では結婚出来る歳なんだよね」

得意気に木暮は言う。

「でも確か男女統一で十八歳になったはずじゃ」

「それは二年後だよ。そんなニュースがあったから気になって調べてみた。今はまだ大丈夫なんだ。その時有美は十八歳なので、どっちにしろおとがめなしだな」

「そうか、それなら良かったよ」


「そう言えば、有美の新しい母親と結婚するのはお前の担任なんだってな。だから二人に迷惑を掛けたくないそうだよ。有美って本当に優しな」
更にそう続けた。


木暮の発言を聞いているうちに、有美を誤解していたことに気が付いた。


(悪いことしちゃったかな?)
嫌がる有美を説得して、死が待っているかも知れない屋上へ行かせようとした。
最悪なのは町田百合子じゃなく俺だったのだ。


「そう言えば有美、橋本翔太のことを気にしていたんな」


「橋本翔太!?」
俺は思わず声を張り上げた。




 橋本翔太。
この前の交流戦で大活躍をしてレギュラーの座を取ったやつだ。
でもまさか木暮からその名が出てくるとは思わないかった。


(あっ、そうだ)
俺はみずほの葬儀会場で泣いていた木暮の近くに橋本がいたことを思い出していた。


橋本翔太は百合子に俺がサッカー場に来られなくするように頼んでレギュラーの座を取ったヤツだ。
俺にとっては許し難い人物だったのだ。


「何で有美が気にしていたんだ?」
俺は気を取り直して木暮に質問した。


「あっ、その前に町田百合子の件もあったな? 俺は百合子が橋本のストーカーだと言ってやったよ」


「ストーカー!?」


「そうだよ、百合子はストーカーだった。ところでお前達」

木暮は何故か不適な笑みを浮かべた。


「悪いけど有美に『あっ。そう言えば、みずほのおまじないの木って知ってるか? 確かその木の脇で『磐城がグランドに来なければ』とか言ったそうだ。その独り言を誰かに聞かれたのかも知れないな』って言ちゃった。お前とみずほって本当にラブラブだったんだな」

木暮は俺の顔をマジマジと見つめた。


「俺には、何でお前がもてるのか、よう解らん」

その後で木暮は言った。


木暮は然り気無く言ったけど、俺には橋本が俺達の秘密の場所を知っていたことがショックだった。
俺とみずほだけの思い出が汚されてしまった気がした。


でもそのことで、橋本翔太が町田百合子に岩城みずほの殺人を依頼した訳ではないと判明した。
百合子がかってに遣ったことだったのだ。


(俺はそれを真に受けて橋本を疑った。こんなんだから厨房って言われたんだな)
俺はマジに凹んでいた。




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