Versprechung
one year
しばらく、眠れない日が続いた。

眠ろうとしたらあの悲鳴が邪魔をする。
まるで悪夢のように、ナイフの雨も脳裏を幾度もよぎる。
彼が私に箱庭に出ないよう約束させて、女神に祈り続けていたのはこの恐怖を和らげるためだったのだろうか。
……いや、違うか。
彼の様子が変わったのは、夢の内容__女の人の声を聞いた後だ。
『流れるものなら流れてほしい。』
空から降るナイフ。
交差する殺気。
まさかナイフの雨を目にした後で、女の人の言動を結び付けたのだろうか。
流れる?一体何が流れるのだろう?
……だめだ。
寝不足で頭が回らない。

「ねぇ、どうしたの?」

ふと、砂時計の前に立つアドラーに問い掛けた。
彼は砂時計の地に降り積もる砂を凝視している。
最初は満タンだった管の天は、もう半分以上減った。
減った分は地に積もっている。

「あともう少しだな。」

「もう少し?何が?」

立て続けに問うが、彼はまもなく砂時計の元を去り、女神像の前に戻ってしまう。
どうやら一人言だったようだ。

フラフラした足取りで砂時計に近づいた。
もう少し、もう少し。
まさか、地に天の砂が全て落ちるまでのことを言っているのだろうか。
目を凝らして落ちる砂を見つめる。
…………。
同じスピード。
一秒にだいたい同じ量が落ちてる。
その光景はいつまでも不思議だ。

「もう少しか……」

確かに天の方は半分以下しかない。
でも全て落ちて無くなったら、何が起こるのだろう。
いいこと?悪いこと?
それとも関係ない?教会の飾り?
謎だらけ。

ザザッ

「ん?」

一瞬、落ちる砂の量が増えた気がした。
目をぱちくりとさせて、確認するように見つめ続ける。
一秒、一秒__
何ら、量に変わりない。

「きっと疲れてるのね。」

あくびをして、のびをした。
色々考えたおかげなのか、だいぶナイフのことが薄れた。
今なら何だか眠れそう。
机に突っ伏すると、一気に視界がまどろんだ。
良かった、おやすみ。


















ピシッ

砂時計の天に、ヒビが入った。
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