アオゾラをカナデヨ
全員が席に着き、準備が出来たことを確認すると、小沢先生がタクトを上げる。みんなが一斉に楽器を構える。

私はこの静寂の一瞬が好きだ。

振り下ろされるタクトに合わせて軽快に始まる木管楽器の音色。その後から追いかけてくる少し力強い金管楽器の音色。

合わさったハーモニーが会場全体に響き渡り、包み込む。

パーカッションのリズムに合わせて聴こえるのはトランペットのメロディ。安斉くんは、今日も調子が良さそうだ。

演奏直前、ほんの一瞬交わされた2人の言葉に癒された私は、自由曲のソロパートも難なくこなす。

静まり返ったホールに私の音だけが響く数秒間。ここにいる全ての人が、私の音だけを聴いている。どう感じているのだろう?心地よく届いているだろうか。

点数の付かない演奏会は、変な緊張感もなく本当に楽しい。

そんな数分間はあっと言う間に終わる。

舞台裏に下がると開口一番、小沢先生のお説教が始まる。まあ、いつものことだ。

各パートごとの気になった部分や全体の印象、これからの課題などが挙げられる。
< 109 / 191 >

この作品をシェア

pagetop