アオゾラをカナデヨ
ああ、聞きたくなかったな。

安斉くんの表情は見ないように、気づかないふりをして通りすぎようとした時。

「ソウ!お疲れさま。ソロよかったよ」

私に気づいた安斉くんが、優しく肩を叩いてきた。

ーードキっ!

「うん、ありがとう」

声をかけられたら立ち止まるしかなかった。

「うん、もう行かないと。じゃな、香子」

「えっ?ちょっと待ってよ」

引き止める香子の言葉も腕も振り払い、安斉くんは私の隣を歩き始める。

「……」

安斉くんから引き離されてしまった香子は、恨めしそうな睨みつけるような目でなぜか私を見ているのが分かる。

ーーなんで、私?

それでも正直ホッとする。2人が話してるところは見たくない。

「あんまり緊張してなかったな」

「まあね、本番じゃないしね」

本番前の安斉くんの笑顔のおかげだとは言えない。

香子に告白されたの?何を話してたの?本当は聞きたい。

でも、安斉くんが香子の話を一切しないのに私から切り出すのも違う気がする。

安斉くんが何を考えているのか分かったらいいのに。いつもの笑顔からは何も、見えなかった。
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